俺は彼の事が気になって仕方がなかった。
どうしてだか彼の声や顔や動きすべてに
目を奪われずにいられなかった。
心を囚われずにいられなかった。
出会いは高校に入ってすぐのクラスメイトとして。
入学式よりも5日遅れで入学してきた彼は
「月代(つきしろ)白雨(はくう)です。よろしく」
と、まるで転校生のように自己紹介をしてみせた。
「あいつっ!おい!こらっ!」
と後ろの席でいきなり叫ぶ生徒がいたから
知り合いなのかと月代を見たけれど
「誰だっけ?よろしくな」
と漂漂と↓口調で笑っていた。
「はあ!?覚えてねーのかよ!
・・・・・・水品だ!覚えておけ!」
水品と言うらしい。
「騒がしいぞ水品。
月代の席は窓際のあの空席な」
担任の笠岡先生に促されて月代が向かってくる。
水品の近くにいた長身の生徒が月代に目配せして
「ごめんね。見ての通り水品ってバカなのよ
悪気はないんだけどどうしようもなくバカなの
あ、俺は古泉。よろしくね」
とひそひそと告げていた。
「うん、よろしく」
月代はそう返すと俺の隣の席に座った。
そして古泉に言ったように少し笑って
「お隣さんもどうぞよろしく」
と言った。
その声に、表情に、ドキッとしたぶん
返すのが遅れたうえに声が上ずってしまったが
「上杉です。こちらこそよろしく」
となんとか返すことができた。
この時から俺はずっと月代を見ていた。
挨拶を交わすこと以外話しかけることもできないままで
ただ、毎日、毎時、いつもいつも盗み見るように見ていた。
それが恋だと気付かぬまま。
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