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パシッ。
竹刀から放たれた小気味いい音が勝敗を告げる。
相手はそれなりに腕の立つ剣士なのだろうが一瞬の勝敗。
遥は「ありがとうございました!」と一礼した後に上の観客席に目をやる。

そこには小さなガッツポーズを向けてささやかに笑う白雨がいる。
遥が吠えた。「見てたか白雨?見てたか?」子供みたいだ。否、
ご主人様に褒めてもらいたくて仕方のない大型犬のようにも見える。
きっとその尻に尾でもついていたならはちきれんばかり振られているだろう。
こういう遥はここに来て、白雨といるのを見て、何度か見て驚いて、笑った。
生徒会の連中がこんな遥を見たならきっと口をあんぐり開けて放心するだろう。

ks.png
「・・・なんだアレは・・・」
あらら。いたわ生徒会。
そっか昨日そういう話したっけ?
大会の序盤に見当たらなかったから忘れてた。
「副会長、来たんだ?」
「そう告げたはずだが。」
「ああ、そうだったな。」
「なんだアレは?」
「なんだよ。」
「なんだあの遥は!」
「いつもどうりだろ。
 本日イチバンの剣士に一本勝ちしたところ。」
「そんなことは解っている!
 その後のあの態度はなんなんだ!」
「ウイニング、スマイル?」
「その相手のあのチビはなんだ?
 あの細くて弱そうなあれは誰だ?」
「さぁ?遥のファンとかじゃない?」
嘘ぶいてみるも
「嘘をつけ。
 知っているんだろう。」
簡単にばれる。まあねえ。
「遥の宝物だってさ。」
それ以上の情報を与えてやる義務なんかない。
「ここだけの秘密にしておかないと
 遥の琴線に触れちゃうかもね。副会長さん。」
忠告だけしてその場を立ち去る。
やれやれだ。
面倒事は嫌いなんだけど
特に生徒会の遥マニアの連中には関わりたくないんだけど
なんでだか俺は思う。ここにいる遥と白雨にここでは穏やかに過ごして欲しい。
ここを立ち去るにしても良い思い出として過ごしてできればまた来て欲しいんだ。

だから残りの数日に波風なんかいらない。

白雨のもとに向かうと
むんぎゅと白雨にしがみついて
「褒めて褒めて」と実際は無い尾を振る遥を引き離す。
「ちょ、臣なにすんの?」
「遥、今は目立ってるんだからそこそこにしとけ。」
白雨から離れた遥は周りを見渡して確かに注目されていることに気づくと
「褒めて褒めて!俺すごくない?次勝っちゃったら優勝なんだけど?」
と今度は俺にしがみついて・・・見えない尾を振った。
俺をカムフラージュに使う気まんまんなのは解った。

「臣さん。」
「ああ。」
遥から解放されたのは午後の部の試合が始まる頃。
結局あのまま抜けだした遥と俺と白雨で昼飯を食ってから。
そういうのどこまでか解らないけどあの副会長は見てたんだろうな。
生徒会の連中と遥の間には随分前から取り決めがあるのだと言う。
俺と。遥の言うところの親友だと言う俺と、いるときに邪魔に入らない。
たったそれだけなんだけれど奴らにはすげえ口惜しい取り決めだろう。
俺はいくら妬まれてもやっぱり遥に特別扱いされてることの方が嬉しい。
豪快な男がこんな繊細な約束をして自分との時間を大事にしてくれるのが嬉しい。
そしてその男が今、目の前で、決勝の相手にも豪快な一本勝ちを決めて見せたのだ。
「遥、すごいね。」
「ああ。」
それ、本人に言ってやれ。
と思いながら、きっと言ってやるんだろうなと思う。
きらきらした目で遥を見ながら笑って言うんだろう。
遥を見やると俺が側にいないのを確かめてか
遥に走り寄る副会長・・・キジィの姿が目に入った。

「遥、キジィに掴まってたろ?」
大会を終えて一服してたらアトリエに遥が来たから聞いてみた。
どうせ大会の後もいろんな連中に捕まっては囲まれたんだろうな。
いつも愛想も元気も良い遥が少し疲れたような顔をしてため息をつきながら笑った。
「キジィだけじゃなくてもう、いろいろ。
 こういう扱われ方久々で疲れたぜ。」
「ふん。今さら。
 体力落ちたんじゃねぇの?」
「体力つーか気力が落ちたのかもな。」
「へえ。弱気?」
「俺が?まさか?」
「そうだろうね。
 ねえ、遥。」
「なんだ?」
「クソガキの面倒くらいなら引き受けてやるよ。」
「・・・ほんと臣は臣だよなあ。
 それも勘か?」
「必然に決まってるだろ。
 生徒会の連中に今ここに居ることがばれたんなら
 遥共々その側にいるクソガキに接触して来ないわけないだろ。」
「たいした神通力で。」
「一応、副生徒会長さんには、
 本当の本音を言っておいた。
 あのクソガキは遥の宝物だとな。」
「うん。あいつは、キジィは俺の勝手なルールをいつも
 誰よりも率先して重視して守ってくれるやつだから嘘はつきたくないんだ。」
「ああ。」
「いつも憎まれ役ありがとうな、臣。」
いつも太陽でいつも正義でいないといけない遥みたいな人間には
俺みたいな側近であり親友が必要なんだろうってずっと前に悟ったよ。
俺の側は落ち着くと言ったあの言葉もそうだろ?
光が光り輝いているためにはそばで支える闇が必要なんだろう?
俺のような。白雨のような。おまえが泥のようにゆだねられる闇。
「臣。」
「なんだ?」
「俺は無力だ。」
「今日の大会で圧勝しといてそれ言うのかよ。」
「心が無力なんだ。」
「また心かよ。」
「ウン。」
「どうした?
 そんなにキジィもろもろ面倒だったか?」
「いいや。
 そんなのは平気だ。
 俺はたぶん弱い男なんだ。」
「ははっ。
 遥のくせに?」
「ウン。
 なあ、俺、最後の頼みは臣なんだ。」
「俺なんか」
「臣、頼む。」
「は?」
「俺がどうしようもないことしたなら、
 その時は白雨を頼む。」
「はあああ?」
「白雨があんなに人に懐くの初めて見たんだ。
 それが俺の親友ってこれ奇跡だろ?」
「いんや。おまえが言い聞かせて俺の事
 親友だなんだと褒めた先入観あっての必然だろ?」
「それでも!臣が臣だから!俺は!
 なあ頼む臣!俺が判断を誤ったりしたなら!」
「解ったよ親友。
 白雨は俺が面倒見るよ。
 それで、おまえとの溝が出来てたなら埋めて返すよ。
 だからさ、あんまり、そういう顔するな。」
「すまない。臣。」
この弱点も曇りも一切ないこの男に
できたしまっったんだな不安の黒点が。
それは抱え込んで守りつくしたい大きな黒点。
なあそれ俺はそのまま抱え込んで引き受けても良いぞ。

おまえが強くあって欲しいというより
俺はそれがちょっと欲しいかもしれない。

あのクソガキ。なんともいえない存在。
幼くて綺麗で少し沙羅を思わせるきらきらした存在。

 

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「shit!先に臣、見つけちまった。
 見つけたからには聞くしかねーんだろうなあ。」

当人に聞こえるように言うこの声は
できれば聞き覚えがない方がありがたい相手だ。
芝の手入れ中の誰もいない真昼の競技場で空を仰ぐ。
そのひとり言のままに思い直して俺に関わらず行ってくれねぇかな?
その淡い期待を裏切って近づいてくる靴音にため息をついて覚悟を決める。

「俺様に話しかけられようってのになんだ?そのため息。」
「話しかける前に嫌がらせのようなひとり言はやめて欲しいんだけど。」
「ふん。俺様は根が正直なんでつい言の葉が漏れてしまうんだよなあ。」
「どうでもいいけど用があんならさっさと済ませてくれよ。副会長さん。」
副会長さん。学生徒委員学生徒会副会長という、
まあ、学園の中ではそれなりの権限がある役職の、同級生。
キーズ・クラント。キジィとか呼ばれてる。で、いたく遥がお気に入りだ。
「遥どこいんの?」
「やっぱりな。」
「つか、遥来てんのになんで知らせてくんねーの?」
「知らせるほど俺、おまえと知り合いのつもりねーし。」
「ほんとおまえむかつくな。
 なのに遥の一番の側近って意味解んねえ。」
「褒められて光栄だ。
 つーか、遥の帰国誰に聞いたんだ?」
「おめーに教える義理はねーけど
 遥の居所聞いてる最中だし特別教えてやる。
 このサマースクールに参加してる運動バカからだ。」
「ああ、桂木な。」
そいつはそいつで運動能力の高い遥を最初にライバルとして
今はある意味目標として遥を追うやつらのうちのひとりと化している。
「で、遥はどこだ?」
「秘密の特訓中だ。」
煙草を取り出して火を点ける。
「煙草なんざ百害あっても一利もねえぞ。
 秘密の特訓ってなんだ?
 遥らしい行動だとは思うが。
 何の特訓だ?バイオリンか?柔道か?」
「剣道。
 明日、その筋のお偉いさんがやってくる大会があるからな。」
「ああ、そう言えば。
 遥が出るのか?」
「だろうな。」
「あい解った。
 おまえにしては的確で有力な情報だった。礼を言おう。
 早速その大会の見学を手配するとしよう。あ、そうだな臣。」
「まだなにか?」
「おまえに貸しを作るのはおもしろくない。
 だからおまえからこの俺様になにかあれば力になるぞ。」
「・・・・・・・・。」
「いま無いのならいつでも良い。
 と言ってもいつまでも貸しを作っているのは気持ち悪い。
 できれば手っとり早く頼みたいものだな。」
「んじゃ早速。」
「ほう?」
「遥がここに居ること知ってるの、できれば
 おまえさんと桂木くらいにとどめておいて欲しいんだけど?」
「は?」
「あいつ病み上がりなんだよ。
 あんまりわいわいされるのは俺も含め望まないと思う。
 おまえだってこの人気の少ないサマースクールくらいは
 いつも誰かに囲まれてる遥でなんかいてもらいたくねぇだろ?」
「・・・ふん。確かにな。
 幸い俺と会長と桂木くらいしか知らないだろう。
 もちろんどんなルートから広がるか知れないが。
 サマースクールもあと数日だ。
 それまではそうしよう。
 遥はもうここにいる。」
そうだ。そして残念だったな。
遥がいるのはそう。このサマースクールのあと数日間だけなんだよ。
そこまでは聞かれないから教えてなんかやらないね。
もちろん一緒に遥の宝物が来てることもね。
 
立ち去り際にキジィ副会長が振り返って言った。
「遥は、元気だったか?
 随分久しぶりだが変わり、なかったか?」
俺はこいつのことはいけ好かないけど
こいつが遥のことを好きなのは解るから
そこだけはちょっと好きかもしれないと思うから
「あの男がちょっとやそっとで揺らぐかよ。
 たいそうなカリスマオーラまとって相変わらず豪快に笑ってたよ。」
とだけ教えてやる。
死の淵をさまよった後とはおもえねーほど。
変わったのはどーにも保護者面してー宝物の前でのデレデレ態度かな。
「そうか!そうだよな!遥だもんな!」
キジィ副会長は納得したように笑って背を向けた。
遥を待ってたやつらはたくさんいるんだよ。
キジィ副会長も他の奴らも全部そうだ。
遥が生徒会抜けたときのメンバー全部。
誰一人遥を悪くなんか言わなかったよ。
ただ、すごく皆落ち込んでたのを知ってる。

俺はお前の口から本当の言葉を聞いてたから
納得してお前の行動に口裏合わせたりしてたけど
「今後生きてくためにどうしても通らないといけない橋渡りに行ってくる。
 生徒会っていうすげえ大事な仕事も仲間も放り出して申し訳ない。
 許してくれなくていいから見逃してくれ。」
生徒会の仲間にそう言って頭を下げた遥。
いろいろな事情を背負った生徒の集まるこの学園のことだ。
言えないけどそうゆうこともあるだろうと思える学園のことなのに。
遥は歯を食いしばって「ごめんなさい」としっかり謝ってこの学園を出たのだ
その遥が帰って来たと、ここに居ると、知った彼らが歓喜する様は目に浮かぶ。

遥はまたいなくなるから
喜んだぶんだけ悲しみも増すから
せめて一目逢いたかったと悔しがる他のメンバーもいるだろうけれど
俺はこんなふうに遥との再会と遥と白雨の穏やかなここでの生活を守る。
いいんだ。憎まれ役は慣れてる。こういうことは俺にしかできないからいいんだ。
これ以上の招かれざる客なんか俺がどうとでも追い払って知らなかったふりをしてやる。

俺だってもう少し遥と白雨を独り占めしたいんだ。

 


サマースクールもあと数日。
サマーバケーションを終えてここはまた
多くの生徒でにぎわう学び舎となるんだろう。
どんなににぎやかでもどんなに活気があっても
俺にとってはつまらない日々が戻ってくるだけだ。

遥も白雨もいなくなる日。

遥が治療のために日本に渡った日を思う。
あのときは実感がわかなかったけど今は解る。
一度経験した別れは実感を伴って経験となった。
いつ終わるとしれないもしかしたらこれきりの別れ。

遥は親友で眩しいほどの生を放つ太陽のような男だ。
とびきりの公平さと寛大さと横柄さが笑えるほど恰好良い。
その男が死ぬかもしれないと日本に行ってしまったそののち
俺は遥以外の親友なんかいらないし遥ほどの親友はできないことを知っていた。
遥を待ちながら沙羅に焦がれながら自暴自棄になったり自堕落になったり無気力になったり
過食気味にも拒食気味にもなって不安定だったりそのくせ絵に没頭して結構な賞も取ったり
いいこともわるいこともあったんだけどどれもが思いだすほどに薄れていく色のない景色ばかり。

絵を描く俺が色のない世界で過ごし
あまつその絵で賞なんか取るなんて滑稽だろ?
と、その絵を手に取り自嘲気味に笑う。時間は、深夜1時。
この絵は売り手がついたけれど売らなかった。売れずにいた。
「差し入れ持って来たぞ。」
いきなりこんな時間に俺だけのアトリエに声が響いて驚いた。
そのついでに手にしていた絵をゴトリと落としてしまった。
それでもそんなことは気にならずに声へと向く。
「遥…」
空いていたアトリエの窓から入ったのだろう。
人一人寝ころべる出窓のスペースに腰掛ける遥。
「驚かせたか?悪かったな。 
 絵、大丈夫か?」
「絵?ああ。」
拾い上げるが別になんともない。
「その絵をさかなにちょっとやんねぇ?」
ギネスビールが何本か透けた袋を掲げて見せる。
「ああ、いいな。」
間接照明だけを頼りに絵を壁に立てかけてフロアマットに座る。
「乾杯?」
「乾杯に疑問調ってどうなんだよ。」
「何に乾杯?」
「再会に。」
「そうだな再会と飛躍に。」
「あと遥の生還に。」
「ははっ。
 うん。また逢えてよかったな。乾杯。」
「乾杯。」
「臣の側は落ち着くよ。」
「んだよ。日本で友達できなかったのか?」
「俺がそんな人間に見えるか?」
「いや。さぞかし人気者なんだろうさ。」
「まあねえ。
 俺って人を引き付ける魅力があふれ出してるから
 隠しきれないんだよね。いやーどうよこのいけめん?」
「顔かよ。
 まあ、遥は俺が今まで出逢った男の中でいちばん魅力的だよ。 
 見た目だけじゃなくて。」
「おい。まじめに返すなよ。俺がただのナルシストみたいじゃねーか。
 で、なに?女でいちばん魅力的なのは相変わらず沙羅か?」
「女でじゃないよ。人間で、この世で、いちばん魅力的なのは沙羅だ。」
「それを聞くたび不憫でやりきれねぇよ俺は。」
「悪かったな。とんだドMの親友で。」
「まったくだ。」
「で、どうだった日本は?」
「退院してめきめき健康になって白雨とちゃんと生活してる。
 友達もすげえいる。女にもけっこう告白された。
 でも恋人はいねえ。なんとなく作れねえ。」
「白雨がいるからか?」
「白雨のせいにはしたくない俺がいる。
 それから日本には親友が、臣が、いねえ。」
「もう酔ってんのか?」
「どうかな。
 懐かしすぎて心がこぼれてんのかも。」
俺は、驚かない。
遥はときどきその豪快さの裏でこういう繊細さを見せることに。
ただの豪快で豪傑でそれだけならただの粗忽者でしかないだろう。
遥は違うから。遥が味わうことのないような俺の痛みも知ろうとしてくれるから。
「サマーホリディが終わっても
 サマースクールが終わっても
 ここに残るって選択はねーのかよ?
 ここは全寮制だし学年幅広く通ってんだから
 日本じゃ学校別々の白雨ともっと一緒にいられんぞ。」
「こっちに居んなら家に帰れって言われちまう。
 休日なりなんなり呼びだされて離される。
 その間白雨はひとりなんだ。違うな。
 白雨が誰と何をしてるのか解らないんだ。」
「遥、おまえ。」
「うん。
 これじゃ見張ってるみたいだよな。
 俺から離れないように。俺だけ見てるように。
 でもそれが最大限の譲歩で俺の限界なんだ。」
手に入れたんなら
その心も体も手に入れてしまえばいいのに。と、安易な俺は思う。
でもこの想いは、遥が白雨を想うこの想いは俺が沙羅に想う感情と同じだ。
向こうから誘いて好きだと抱いてくれと潤う瞳で懇願されれば超えられる一線。
自分からその壁を壊そうなんてもっと大事なものが崩壊しそうでとても越えられない一線。
「遥は俺と似たバカだ。」
「そうか?」
俺は沙羅に嫌われているからふんぎりも諦めもつく。
遥は白雨に愛されてるから手放すことも逃げることもできないのか。
「少し違うな。」
「違う、か?」
「だっておまえ白雨に恋人できたら泣くだろ?
 おまえが白雨のいちばんじゃなくなったら泣くだろ?」
「…泣く。」
「俺は平気だ。
 沙羅が結婚しても、幸せだったらいいよ。」
「すげえな、臣。
 高尚な恋してるように聞こえるぞ。」
「ばーか。ただのドMの恋だ。」
のどを鳴らして最後の一口を飲んでから
もう一缶を手にと取ってその口を開ける。
「インターンってあんじゃん。」
「医者とか美容師とかのか?」
「そう。医者つーか看護婦。
 俺ずっと病院だったろ?」
「ああ、うん。」
「そんときに看護婦の卵いてさ。
 実習終わる日までずっと告白された。」
「告白?」
「好きだって。びっくりするくらいにしつけえの。
 俺はちゃんと優等生的にきちんと断ったのにさ。
 もう毎日毎日。つっても就業時間以外だったけど。
 そこらへんはきちんとしてんだなって笑ったりしたよ。」
「ほだされたか?」
「さあな。不思議と嫌いにはなれなかった。
 インターン終えた後にさせいせいするかなって思ったけど、」
「思った、けど?」
「病院近くで白雨が俺に見舞い用にいつも花買ってくる花屋あんだけど
 そこでバイトしてんの。卒業までここでバイトするんだとか言ってさ。
 白雨とも顔なじみになってるし、俺と白雨の関係が好きだとか言うし。
 なんにも知らねぇくせにたぶん一生一緒にいられないあなたたちの
 懸け橋になりたいなれると思う。自分を最大限利用してくれ。って言うんだ。」
「なんも知らないくせになかなかに的を射たつーか…
 遥の揺らぐポイントをグラグラつついて来るわけだ?」
「ああ。
 なんなんだあの女は。
 嘘がないのが解るから不気味だけど不快じゃないんだ。
 ときどきゆだねたくなるような、すがりたくなるような、気分に陥る。」
「遥にそういうこと言わせる人間がいるとは驚きだな。」
ぐい、とあおるもアルコール度数が少ないせいか全然酔えない。
「俺はこの世で白雨より大事なもんなんてないんだ。
 一度拾われたこの命すら。」
「だろうな。」
「白雨のためなら、違うな、
 白雨を守って傷つけないためならなんでもしたい。」
「そう思い込み過ぎだ。
 あのクソガキはそんなに弱くない。
 遥ひとりで全部抱え込むことじゃない。
 そう思えるだけあのクソガキも遥のこと慕ってんだろ。」
「臣は正しいよ。
 99%そうだと思うことでも
 白雨がからむとその1%が怖い。
 笑えるほど臆病になれるんだ、俺は。」
「そのようだな。
 だったらクソガキが傷つかない最大の方向性を探せばいい。
 結局その1%がどんなにくだらない懸念であっても消えないなら、な。」
「臣は俺がぐるぐるしてるときに限って突き放すよな。」
「ぐるぐるしてる人間はずっと同じことでぐるぐるしてんだ。
 そんなやつと一緒にぐるぐるしてたって答えなんか出ないからね。
 だって答えなんかもう出てる。そこに行きつきたくないからぐるぐるしてんだ。」
「真理だ。臣。
 なあ、一緒に日本に…」
「行かねえ。俺は飛行機だめなんだ。
 それから沙羅と離れたところに行く気もねえ。
 例えこの世の何より毛嫌いされていても好きなもんな好きなんだ。
 遥とクソガキの仲介だかキューピットになる気もさらさらねーからな。」
「ははっ。臣らしいな。」
「まあ、遥の大事なものに知り合った縁で、
 遥が大失態であのクソガキ泣かせたら慰め役くらいはやってやるよ。
 大丈夫、遥の一番はキミだから、遥のところに安心してお帰りなさいってね。」
「臣!」
遥が飛びついて来た。
当たる頬が熱いので酔ってるなとか思う。
「はいはい。」
「俺はおまえの恋になんの協力もできなくてごめん。
 不甲斐ない親友でごめん。沙羅の弟なのによお。」
「それは俺の不徳の致すとこだからなあ。
 それに俺はドMな恋しかできない体質だしな。」
「臣。おまえはもっと幸せでいいのにな。
 よく見ると美人だし。あ、美男か。
 髪も綺麗だし健気だし。」
「はいはい。飲み過ぎ。
 もう3時だ。ここで寝る?」
「おう。なあ臣。」
「なんだ?」
ブランケットを出しながら返事をする。
「この絵、臣の描いた絵なのか?」
ぼんやりと間接照明に浮かぶ壁に掛けられた絵を見ている。
さっき取り落とした賞を取った絵。
「ああ。」
「臣らしくない消極的な絵、だな。
 なのに一部分だけが攻撃的で、寒い。」
「だろ?」
俺も賞を取って改めてこれ見てそう思ったよ。
なんて殺伐として悲しくて光を求めて止まない絵だろうって。
「うん。こないだの…白雨モデルにした、らくがきみたいな抽象画、
 あれがこの絵の完結編なら…この絵はすごい意味がある…ように見える。」
ああもう寝てしまった。
ねえ、遥。おまえも俺もインターンの女もみんなドMな恋してるよな。
そして、もしかしたら、ううん、きっと、たぶん、白雨のクソガキもそうなんじゃないか?
  







 

30分。こんなところだろう。
「「もうできたの?」」
手を止めたらそれを見計ってか同時に声がした。
本を読んでいた白雨と、アトリエの入り口に立った遥。
全然似てないけどさなんかどっか似てるんだこいつらは。

「乾くの待ってもうひと重ねってとこかな。
 今日のところは終わり。
 息抜きの手慣らしだし。」
「そっか。」
「おい、臣、見ていいか?」
「ああ。」
コーヒーを淹れるためにキッチンカウンターに立つ。
「見てもなんだか解んねぇだろ?」
あんまりに返答がないからそう付け加える。
ちょっと身を乗り出して見やると白雨も一緒に見てた。
二人して聞こえていないかのように黙ったまんまそうしてる。
とりあえずコーヒーを3つぶん淹れてからトレイに乗せて持って行く。
「どーした?」
コーヒーを差し出しながら言うと
コーヒーの匂いで意識を取り戻したような顔して
そう、二人とも目ぇまん丸のおんなじ表情こしらえて
「「なんか、すごい」」」
これまた声までそろえて言うもんだからおかしくて少しコーヒーを吹いた。

「なにがだよ。」
「いいな、こういう色。」
「うん。すごく綺麗。」
お綺麗なガキのお綺麗なイメージを色にしたらそうなった。
とはさすがに言えないから「そうかよ。」と返しておく。

「来たよ。
 何したらいい?」
アトリエをノックする音にドアを開けたら白雨がいた。

「あーとりあえずそこの窓、そこ座って、
 本好きなんだっけ?本読んでてくれればいい。」
「そんなんでいいの?」
「そんなんでいい。」
「うん。」
鞄から本を取り出して窓へ向かう。
窓の上には人が寝そべれるくらいの梁があって
その向こうは窓になっていて柔らかな日差しが注ぐ。
窓の向こうは緑の森が広がっていて真夏だというのに程好く涼しい。

「ここ、いいところだね。」
「だろ、自慢のアトリエだ。」
「臣さんしか使ってないの?」
「なんか賞取ったとかで好きにさしてもらってんだ。
 美術室みたいな建物もまだ他にあるからいんだろ。
 ここ一般校舎からは離れに立ってるから元々あんま使われてなかったらしい。」
「ふうん。
 ここの窓は全部森の緑で学校から隔離されてる感じがいいよね。
 なんか秘密の隠れ家みたいで。」
「ああ、そーいうとこが気に入ってんだ。」

スパチュラをカンバスになすりつけながら
白雨の肌の色や髪の色こないだの月の色を重ねていく。

「背中、傷あるんだってな。」
「うん。見る?」
「いやいい。
 怖くなかった、のか?」
「怖いって言うか必死だっただけ。」
「妹を守るのに?」
「守って逃げるのに。
 すげー雨降ってて視界悪くて
 追ってきてるのかどっかに潜んでんのか解んなかったから。」
「それって怖くね?」
「守るものが自分だけならそうだったかも。
 ただ雨がすごかったってことくらいしか覚えてないよ。」
「ふうん。」

視界を霞める降りしきる雨。
白い雨。白雨。
スパチュラを綺麗に拭いてから新たな色を乾きかけた場所に重ねる。
塗りたくられた色折々のカンバスの上に揺るがない意思のように閃光を放つ白。


 




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