月代日記

なんかさ、水品って何かあったら
直ぐ顔とか態度に出んのよ。
本人は意識してないつもりなのが可笑しい。
んで、ここ最近も変な顔してんの。
たださ、今まで見たことない感じの変、なわけ。
なんつーか、普段なら意味なく挑んだり叫んだり
そんな感じで顔にバカって張り付いてる感じなのに
今回は、う～ん、悩んでる？
悩むより行動の水品なのにな。

ん、で、俺の顔見て「む～」とか唸ってんの。
怒ってんのかと思えばそうでもないみたいで、
「どーした？腹でも減ってんのか？」
みたく聞いたら、
「おっ、俺の弁当食っていいぞ！」
ってさ。意味解んねえよな。

「俺は減ってないけど、水品大丈夫か？」
とか聞くだろ？当然。したらさ、
「月代大丈夫か？悲しくないか？」
だって。なんなのかな。こいつ。
会話が通じないけど気遣ってくれてんのは解ったし、
もうどうしようもないから古泉んとこに行った。
2年になって古泉とクラス離れたのは辛いよ。
したら至極納得で明瞭な答えが返って来た。
さすが古泉だよ。

ま～あれなんだ。
俺が幼少時、母親何人も代わってる話とか、
妹かばって2番目の母親に切りつけられた話とか、
居場所が不安定な時期に遙と2人で暮らし始めた話とか、
その遙を失ってその遙の恋人も失ってだとかなんかそういう
耳で聞くだけなら他人には可哀想に映る俺の話を、
聞いちゃったらしい。知っちゃったらしい。
別に可哀想でもないんだけどなぁ。今は。

自分を可哀想とか思ったことはないんだ。
そう思う余裕もなかったってのもあるけど。
遙と再会する前のことなんかあんま記憶にないくらい
あんま記憶からなくなっちゃうくらい遙と再会してからの
毎日は眩しくてキラキラしてた。ホント宝物だって思う日々。
それを失って辛かったのは確かだけど、生きにくかったのは確かだけど、
そう思って、いろいろ考えて答えが出ないまま行き着いた先にいたんだよ。
それを辛いと思う余裕がないほど笑っちゃう毎日をくれるヤツらが。

いちばん意味不明だったのは水品。うん、おまえかもな。
初めっから
変につっかかって、
変に挑んできてくれて、
いっつもむきになって、
俺にわめいて、むくれて、笑った。
どんな俺で生きていこう、なんて考えてた時期にだよ。
んなこと考えてんのバカバカしくて笑って構うしかないじゃん。

なだめる古泉がいて、
俺らを楽しいと言う上杉が居て、
そういう居場所ができたんだって報告できる楠木がいて、
うん。俺は失ったと同等の幸せな居場所を手にして生きてる。

そーいうのたらたら話したところで水品相手には仕方ないから（笑）
古泉に軽く伝えて笑って水品と同じ教室へ戻る。
古泉はそれだけで多くのことを悟ったように笑った。

「水品、」
「なっ、なんだ月代。」
「後で、コンビニつきあって。腹減った。」

水品は今知った俺の話に今更の反応なんだけど
俺にとってはもうたぶんそれなりに克服したことだから
これからの日常を共にするおまえらの方が切実で重大なんだよ。
だから少しでも毎日が楽しくって一緒に笑えたらいいよなって思うだけだ。
付き合ってくれるんだろうコンビニに競争でダッシュして水品なりに心配、
してくれたんだろう今日のありがとうと、今までのありがとうと、これからのありがとう、を
込めて牛乳おごらせてやろうって思う。んで明日は俺がその倍差し入れてやるんだ。


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ちょっと先の月代日記です。
水品が出てくると和みます。