月代日記
俺はサイテーだ。
上杉がこんな俺のどこを見て
好きだとか言ってくれたのかは解んねえ。
そんな価値なんかないと思うしそんな俺が
上杉を傷つけたとしたら傲慢もいいとこだ。
生田に恋の相談を受けた。
それから告白の予行練習に付き合った。
叶わなかった恋を持ち帰った生田と並んで
ラーメンを湯気にまみれてひたすら食った。
生田はすげえ。
生田側で生田の恋を感じたから
告白をする勇気ってすげえって思った。
告白してくれた上杉もすげえって思った。
生田が言った。
「言うからには何かが動くと思うんだよ。
振られるにしても俺の気持は伝わるだろ?
伝えることで残る思いってあるって思うんだ。」
って。目からうろこなんてもんじゃなかった。
上杉の告白の意味、ほんと解ってなかった、俺。
上杉は言うから。
「すまない。」って。
「返事はいいんだ。」って。
「いままでどおりでいてくれると嬉しい。」って。
俺はその言葉どおりにいままでどおりに接してた。
いままでどおりを望むならなんで告白するんだよ。
俺はサイテーだ。
そこ違うだろ。何かあるからだろ。
そんだけ勇気出したことに結果はいらないって。んなわけねーだろ。
俺は逃げてた。つか、いっつも逃げてばっかだ。真剣に何かに向かうことから。
それを遥を失ったことや
遥の恋を失ったことで
失うことに恐れが生まれたことにして
失うくらいなら始めからいらないって
そう言うのは簡単で卑怯だ。でも、俺はどっかでそう思ってた。
失うのはもういい。
永遠の恋なんかなかったんだ。
俺の居場所なんかいつかは消えるんだ。
って。とんだ被害妄想だよ。どんだけ弱いんだよ俺。
生きてんのに。
生きてんなら前向いて生きなきゃじゃんか。
失うもん取り戻すくらいの覚悟もなくて逃げてんじゃねえよ俺。
上杉はあんな苦しそうに想いを告げてくれた。
んで、たぶん、俺を気遣って、いままでどおりでいいって言う逃げ道を
俺にくれた。
俺が駄目だから。
俺が困ったから。
こういうのは男同士だからとかそういうの関係ない。
むしろ、だからこそ、上杉の勇気と覚悟を味わうべきだった。
恋愛に対する感覚がごっそり欠けてた俺はただ戸惑って「ごめん」って言った。
いつかの未来なんて夢空言だから俺の夢は大恋愛なんてふざけて言ったりしたけど嘘じゃない。
上杉に逢いに行こう。
そんでちゃんと俺の言葉を告げよう。
ん、で。春休みの今。上杉が通ってる塾の前にいる。
以前図書室で塾に通ってる話は聞いてた。春期講習も出るって。
そろそろ昼だし昼休憩には飲み物くらい買いに出てくるといいな。
だって今日から4月だってのにかなり寒い。昨日は暖かかったのに三寒四温?
しかも風が強いのなんの。春一番?折角咲いた桜ぼわって散って目の前が桜霞。
ぴんくの視界の先に現れた上杉はきょとんとしたカオして「月代?」って言った。
「うん。月代です。逢えてよかった。」
「俺に?」
「うん。待ってた。」
つったらなんか上杉が泣きそうなカオした。
ゴメンナサイ。ナカナイデ。ゴメンナサイ。
「ちょっといい?」
「ちょっとじゃなくても、いい。」
オレガナキソウ。
「久し振り。」
「ああ。」
「んーと・・」
「こないだ、」
「え?」
いきなり待ってた俺に上杉が話し始めた。
「ほいわいと、」
「え?」
「ほいわい・・ほわいとでーに、」
「うん?」
上杉のほうが積極的に話してくれて戸惑う。
「これをもらって、」
ああ、そうだった。
ホワイトデーだったっけ?日差しは暖かいのに風は冷たい日。
なのにマフラーもしてない上杉の後姿を見つけた。しかも薄着。
なんか見てる方が寒くて思わず俺の巻いてたマフラー上杉の首に巻いた。
絶対遠慮しそうだったから有無を言わさず「風邪引くなよ!」ってそのまま帰宅したっけ。
「その前にも同じように巻いてくれた。」
って上杉が言って。バレンタインデーに冷え切ってマンション前にいた上杉に巻いたこと思い出した。
上杉ってなんかいっつも寒そうってか冷えてるんだもん。平気だっつっても見てる方が平気じゃない。
「上杉寒そうだったからなー。」
とだけ告げた。
「うん。解ってる。」
「え?」
「翌日が終業式だったから返しそびれてしまった。
暖かかった。ありがとう。」
上杉が鞄からそのマフラーを取り出した。
え?解ってる?てか、
「なんで持ってんの?俺来ること知らなかったのに。」
「なんとなくいつも持ち歩いていた。」
「あげるつもりで巻いたから、返さなくていいよ。」
「え?」
「そう言えば今、昼休憩だよな?
食べる時間なくなるよ。俺終わるの待ってるから
塾が終わった後少し時間くんない?」
「そのためにわざわざ?」
「んー。
携帯で連絡しようと思ったけど授業中じゃん?
何時頃に終わるのかも聞いておきたかったし。」
「昼は・・いい。」
「上杉?」
「今日は昼まででいい。」
「まででいいって・・。」
「どうせこのあとは模試の答え合わせとその復習だけだから。
春期講習も今日までだから提出物もないから。」
それって俺のせいで上杉がさぼるってことじゃねーの?
そんなことさせるために来たんじゃないんだけどな。
「上杉、それはちょっと・・・」
「全科目満点だった俺が、同じ内容の模試の復習に、
時間をかけて付き合う必要あると思うか?」
ちょ・・・上杉がかっこいい。
かっこいいこと言ってるのに顔が真っ赤だ。
かっこいいこと言ったのに言って照れてんの。
「ぷっ・・・はははっはっ。
上杉すげーかっこいい。」
「・・・だから昼まででいいんだ。このまま帰る。」
「うん。」
いっか。
上杉なりの気遣いなんだろうな。
普段あんなこと言わないくせにな。
上杉が持ったままの俺のマフラーを取って上杉に巻いた。
「んじゃ、行こっか。」
「これ、」
「いらなかったら、家に帰ってから捨てて。
今は寒そうだから巻いてて?」
「・・・捨てたりなんか」
「うん。もらってやって?」
「・・・ありがとう。」
「うへへ。」
昼だったし、近場にあった喫茶店に入った。
上杉はグラタン、俺はナポリタン。
上杉はダージリン、俺はカフェラテ。
外でこうして上杉と食べることないから
上杉がグラタン食べるとこ初めて見た。
好きなのかな。クリーム系。
水品はぜったいハンバーグ注文するよなぁ。
しかもデミグラスよりケチャップ系の甘いの。
で、バターソテーの添えられたニンジンをさ、
嫌いだからってこっそり古泉の皿に乗せて怒られんの。
んで古泉を諦めた水品のニンジンが結局俺の皿に乗んの。
「上杉は、好き嫌いとかある?」
「俺、は、特に、ない。と思う。」
「いいことだね。」
「月代は、あるか?」
「油漬けのブラックオリーブは苦手かな。
ピザに乗ってるのとかは平気だけど丸々1個とかはね。」
「丸々1個・・食べたことがないな。」
「そうやって食べるものじゃないよね。たぶん。」
店を出たらやっぱり吹き付ける風は冷たくて、
「おおっ。」って言ったら上杉が
「美術館のロビー風よけになる、から。」って美術館を指差した。
このあとどこで話すか考えててくれたのかなぁって思うとなんか、
嬉しかったしありがたかった。上杉はいつもいろんなこと考えてる。
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日付が間に合わなかった。
のちほど修正に参ります@管理人。
後半は本日上杉視点で。
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