若山先輩が俺を呼んだ。
心当たりは勿論あった。
桜の木の下に先日から設置されたベンチに座った。
桜は咲いていないけれど空は青くて気持ちがいい。
「此花のこと振ったんだってな。」
「すみません。」
「責めてねぇよ。」
「はい。」
「人の恋路に首突っ込むつもりはねえのにな。
あいつを見てたらつい余計なことしちまうんだ。
とことん面倒見ねえと気が済まねえ性質なのかね。」
「面倒見が良いってことなんじゃないですか。」
「そうかね。
俺はなーあいつが振られるの、初めて見た。
あ、さっきも言ったけど責めてるわけじゃねーぞ。」
「はい。」
「性格というより考え方に問題を持ってるやつだが
見てくれがあれだろ。そんでそういうことに慣れてる。
なのにおまえはほだされもせず流されもせず振っちまった。」
「はっきりした告白をされたわけじゃないので
俺が此花を振ったというのは少しおかしいですよ。」
「そうなのかもな。
でも別に好きなやつができたってことなんだろ?」
「はい。」
「2年になって月代とクラス別れただろ、
そん時の此花の落ち込みようがすごくてな、
学校に行きたくないってベットの中に引きこもったりしてた時期があって、」
「ああ、はい。」
「俺も朝練あるし参ってたんだが、」
「はい。」
「月代に学校来てって言われたって
学校行き出したんだよな。」
「そう・・・ですか。」
「なにしたんだ?」
「あ・・・」
「じゃねーな。いい。いい。言わなくて。
そんときはありがとな。」
「そんな、俺は、」
「そんでさ、振られたって言うから
初失恋だしどーなることかと思ったら、」
「はい。」
「すげえ嬉しそうににこにこへらへらしてんだ。」
「そう・・・ですか。」
「どんな魔法が使えんのおまえ?」
「あははははっ。若山先輩の口からまさか魔法って・・・」
「なんだあ?俺がファンタジックなこと言ったらおかしいかよ。」
「いえいえ。若山先輩はファンタジスタじゃないですか。」
「地味に褒めるな。
あ、何をしたのか聞きたいわけじゃないんだわ。」
「はい。」
「あいつを笑わせてくれてありがと、な。」
「俺は何も・・・」
「実らなかった初恋かもしんねーけど
あいつは去年より一昨年より笑ってる。
振られたのにすげえ幸せそうに笑ってる。
それだけは俺の眼が見たほんとのことだ。」
「なんかてれますよ。
俺のおかげなんかじゃないですよ。
若山先輩がいたからだと思います。」
「いーや。お前だ。
俺は帰るところになってやれても
行きつくところにはなれねえだろうから。」
「そんなの誰にもわからないことですよ。」
「そーかね。
このまんまだと俺、何言いに来たかわかんねーな。」
「うへへっ。そうですね。」
「此花のやつ、
振られたくせにその前より嬉しそうなんだ。
嬉しい。気持ちいい。って幸せそうに笑うんだ。
なんで?って聞いても月代との秘密って言うんだけど、」
「あ・・・」
「あいつが秘密って言うんだから言わないでいい。
ん、と、ありがとな。」
「礼なんて・・・」
「言いたいって俺が思ったから言わせとけ。
それから、」
「はい。」
「月代自身もも恋愛の主役っての、できるようになってよかったな。」
「ありがとうございます。」
去り際に頭をなでた若山先輩の手は大きくてちょっと遥を思い出した。
いつも誰かを見守って気にかけて心配している優しい手だ。
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お題28をUPしながら此花の存在が
おろそかになっていることに気付いたので
ちゃんと此花もこんなかんじですよなSS。
秘密の部分は次に此花視点のアンサーSSで。
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若山の深層心理。
(あいつが月代を好きだって言っているうちは
俺は絶対手を出さない理性を働かせることができるんだ)
だって俺はあいつの親友だから。
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