生田日記
昨夜は月代が寮に泊まりに来た。
つか、俺が来てもらったんだよな。
なんでかってーと、
地球防衛ゲームがしたかったわけでは当然無くて、
恋の相談。
ああ、改めて書くとなんか恥ずい。
恥ずいだけじゃなくてなんかもう死にそうだ。
結果から書くのってだめ?
つか過程つらつら書くの辛いんだけど。
えーなんで月代に恋の相談したかって言うと
女子陸上部の草影さんに告白したいって思ったから。
月代って付き合ったことがあるとかって水品から以前
聞いたのもあったけど周りでいちばん相談しやすいしさ。
五条なんかに相談したらどんなでたらめアドバイスされることか。
「明日ホワイトデーじゃん。」
ベットサイドのカーテンを閉めてベットの上で月代と向き合って座った。
隣のベットで「俺を隔離すんな!」とかなんとか叫んでるけど気にしない。
今日しか無いんだ。明日が勝負なんだ。と月代に相談した昨夜。
「うん。で、決心ついたか?」
「うっ、うん。あのな、言うこと考えたから聞いてくれない?」
「相手役で?」
「そう。んで、感想聞かせて。」
「オッケ。いいけど俺じゃ参考になんないかもよ。」
「いいんだ。月代の意見聞きたいのもあるけど、
予行練習することで落ち着く気がすっから。」
「そっか。」
「いくぞ。」
「よし。」
「あっあの、今日ホワイトデーじゃん。」
「うん。」
「バレンタインデー好きな人にもらえなかったからさ、
ホワイトデーに俺が渡そうと思って。」
「・・・。」
「草影さんのことが好きです。これもらってください。」
当日渡す予定のクッキーが入った小さな包みを差し出す。
「どう?」
「うん。」
月代が口元を押さえてもう一度「うん」って言った。
「すげストレートでいいとおもう。」
「マジで?」
「うん。好な子に言われたら嬉しいだろうな。」
「そこなんだよな。嫌われてはいないんだろうけど、
そういう対象で見られてない感じなんだよなー。」
「そっか。」
なんか月代が困ったみたいな顔をした。
「俺が振られたからって月代のせいになんかしねーから
相談されたのが不運だったと思って気にしないでよ?」
「え?ああ、うん。当たって砕けろ。」
「まーそんな感じになると思うけどな。
言うからには何かが動くと思うんだよ。
振られるにしても俺の気持は伝わるだろ。
伝えることで残る思いってあるって思うんだ。」
「うん。」
「月代?」
「ほんとだな。あるよな。」
月代らしくないっつーかなんかしみじみとした声と表情。
こん時もしかしたら月代も叶わない恋とかしてんのかなーって思った。
月代が片思い?似合わないよな。イメージできないよな。けど、やっぱ
そう思っちゃうような、なんか、危うさや儚さをこん時の月代は感じさせた。
で、だ。
太鼓判を押されたってほどじゃなかったけど、
ま、勇気だして告白したわけだ。本日ホワイトデー。
見事に玉砕。解っていましたよ。なんか好きな人いるんだってさ。
でも草影さんもバレンタインデーに失恋してたみたいでさ、チョコ、
受け取ってもらえなかったんだってちょっとさみしそうに笑ってた。
世の中うまくいかねーのな。
好きな人に好きになってもらえたら皆ハッピーなのにさ。
「でも、気持は伝えられたからいいんだ。」
って放課後、教室で待っててくれた月代に言ったら、
「うん。お疲れ様。」
ってオレンジの夕日を背負って小さく笑った。
なんだろうな。振られた瞬間、仕方ねぇなーってくらいだったのに、
そんな月代の顔や声やオレンジ色の夕日に触れたら泣きそうになった。
っじゃなくて、泣いてしまった。
腕で拭って隠したけど嗚咽でバレバレ。
月代は俺と反対を向いて「オレンジ色が刺さってまぶしい。」って言った。
「俺、かっこ悪いなー」って言ったら
「凄くかっこいいよ。」って言ってくれた。
「振られたのにか?」って言ったら
「なんにもできない俺よりはよっぽどかっこいい。」だって。
やっぱ月代も恋、してんのかな。ちょっと聞いてみたいって思ったけど
「ラーメン食いに行こう。そのクッキー俺にくれんならおごるよ。」
だって。失恋の残骸もらってくれるんだってさ、んでラーメンおごってくれるって。
一緒に並んでラーメン食ってたら湯気で鼻水が出てきちゃって、
ついでにじんわり涙も浮かんじゃって、
そんでもガツガツ食って、
一気に食った。
横の月代見たら、なんか月代も元気ない感じで、
俺の痛手を一緒しょってくれてるみたいだった。
なんで月代がダメージ受けてんだろうな。
でもなんか嬉しかった。
相談してよかった。
「月代、あんがと。」
「役にたってないけどな。」
「それは俺の男前不足だからなー。」
「生田はかっこいいよ。」
いつも普通、としか言われない俺に月代が言うのかよ。
「ほんとだよ。また明日。」
ラーメン屋を出て月代と別れた。
俺の散々な結果になるはずだったホワイトデーは
結構月代に救われた気がする。
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