「水品の圧勝だったな」
スポーツテストの翌日、
昨日の弱った姿を微塵も感じさせない
いつもの顔で登校してきた月代が言ってきた。
上杉でも古泉でもなく真っ先に俺のトコに来たから
まあ、何をでもないけど許してやる。
「棄権かよ、ふざけんな」
「悪い」
いつもの俺の適当な憎まれ口に素直に謝るなよ。
「熱、もういいのか?」
「うん、一晩寝たら下がった」
「よかったな」
「ありがと」
なんか調子狂うんだけど。
気になることがある。
上杉が昨日言ったこと。
月代が熱出したのは上杉のせいだって。
それどう意味?どういうこと?なんなの?
どう聞いていいか解らなくてとりあえず、
上杉の名前出そうとしたところで古泉が来た。
「つっきー大丈夫?
今日は休まなくて平気?」
「大丈夫。心配ありがと古泉」
ちぇっ。聞きそびれた。
「なんか変な気分だよ」
月代が言った。
「なにが?」
古泉が聞いた。
「俺、熱、出たの初めてなんだよね
風邪も引いたことないんだよ」
「マジ?」
「あらまあ」
この歳になって風邪初体験って!
「バカは風邪引かないって言うからな!」
良いこと思いついた!って言ってみたら
「はい。言うと思った!バカに言われたくないわよね~
だいたい月代風邪引いたって話してんのにそれはないわ」
と古泉に言われた。
月代は不思議な感じで力なく笑ってた。
「つっきーなんか元気ない?
まだちょっと調子悪い?」
古泉もどっかおかしい月代に気付いたみたいで
わりと真剣な顔で心配してた。
「そう?」
月代は何でもないみたいな返答してたけど
なんだか上杉のことにしても解らないことだらけで
もやもやしてどうしようもなかったから月代に飛びついた。
「ちょ水品!」
「どうした?」
月代の首根っこに後ろから両腕で羽交い絞めたら
ちゃんと普通の体温で俺よりちょっと低いくらいで
もう熱もない普通の月代に安心した。
「平熱だ」
「うん。もう下がったよ」
俺の羽交い絞めをふりほどくことなく月代が笑う。
首から月代のなんかいい匂いがした。
くんくん嗅いだらさすがに古泉が
「ちょ、やめなさい。犬みたいよ」
だってさ。犬でもいいや。
「何がいい?」
ふいに月代が聞く。
「何がって何が?」
「勝負、俺負けちゃったし」
負けたもなにもお前、風邪引いて熱あって、
なのに午前中、サッカー部期待の星のこの俺に、
よりによって走りで勝ってんじゃねーか。ふざけんな。
「負けてねぇよ」
「棄権したから?」
「そうじゃねぇよ。
そうじゃなくて・・・・・・もういいよ!」
「水品は、帰宅部のつっきーに、
走りで負けたサッカー部期待の星だものねぇ」
「うっせえ古泉!」
それを言うんじゃねえ!
「どうしてもってんなら・・・・・・」
「は?」
「ん?」
「秘密教えろ」
上杉のこととか
なんでもいいから
もっと月代を教えろ
俺の知らない月代とか嫌なんだよ。
昨日からのもやもやが消えないんだよ。
「秘密って・・・・・・」
古泉はあきれたように言うけど
「いいよ。秘密かあ。何だろうな」
月代は後ろにへばりついてる俺に
首を回してすげえ近距離のトコの顔で言った。
俺は月代を嫌いなんかじゃないんだって
強く、強く、思った。
嫌いなんかじゃないんだ。
張り合いたいわけでもないんだ。
ただ、この胸のもやもやを知りたいんだ。
知ってるなら教えてくれよ。
おまえの秘密も教えてくれよ。
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