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俺には好きな女がいる。
好き過ぎて好きなのか嫌いなのか解らない。
俺はたぶんこの女が世界でいちばん憎くて愛しい。

だってその女は俺のことを嫌いなのだ。
こんなに好きな相手に嫌われなくてもいいじゃないか、と思う。
こんなに好きな相手だからこそ嫌われているくらいがちょうどいい、とも思う。

別にどうなりたいわけではない。
恋人になったら俺はどん引くだろう。
言ってることがむちゃくちゃだがそれは変らない。

熱心なキリスト信者がマリアを抱きたいと思わないのと同じことだ。

崇高すぎて手を出したいなんて思わない。
俺は穢れた存在だからそんな俺が触れれば穢れる。
この世でたったひとつの美しい崇拝物を穢すようなら世界そのものが滅びる。
それが俺の世界観で彼女を想い続けるたったひとつの信念であり崇拝である。

ただ、嫌われていることは知っている。
悲しいようで少し安心もしている。
俺のような人間を認めない人。
俺の存在を忌み嫌う人。
彼女には相応しい。

好きだと思えば思うほど嫌われる行動を取るのは
嫌われてでも彼女の心のどこかに引っかかる存在でありたいと願っているからだ。

ああ、不毛な想いだ。
ああ、ぬるい想いだ。
彼女の弟である親友は俺がそう言うと
「あんなん、どこにでもいる女じゃねぇか。」
と笑う。
血のつながりは瞳を濁らせるようだ。
この親友はあまりに正しく美しく清らかで豪快な人間だ。
本気になったらどんな人間だって魅かれずにいられないだろう。
だから、この完璧なふたりに血のつながりという壁があってよかった。
そう言うと、
「なくても俺はあいつに惚れることはねぇよ。」
と笑った。
「だって俺はもうなにより大事なもんに出逢っちまったし。」
と笑ってから、
「今までおまえの言うこと意味解んなかったんだけど、
 そう言うもんに出逢って手に入れちまったら少し解った。」
そう真面目に言った。

手に入れたって言いやがったよこいつ。
そんなら俺の気持ちなんて微塵も解んねぇよ、ばぁか。

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