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「どうかしましたか?」
ぼんやりと窓際から庭の木々を眺めていたら
銀のトレイにアイスティを乗せた使用人の林さんが立っていた。
どうぞ、と俺の脇にある丸いテーブルのそれを置いて静かに言った。
「なんだか嬉しそうにも悲しそうにもお見受けできるので。
 不自由はありませんか?」
なんて暖かで気の利いた言葉だろう。
なんて物腰の柔らかい人なんだろう。
俺もこういうふうにできればきっと広夢様の役に立てるのに。

「不自由なんて、とてもよくしてもらってありがとうございます。
 なんだか毎日が嘘みたいで夢みたいで現実味がないだけです。」
「現実味、ですか。
 確かにここでの生活は少し現実離れをして見えるかもしれないですね。」
「はい。
 俺は、たぶん、一般以下の生活を送ってきたんだと思うので
 ここでの住まいはなんていうか、穏やかで、優しくて、不思議です。」
「穏やかで、優しい・・・ですか。
 それは広夢様のこともでしょうか?」
「え?」
「あの方はときどき無茶を言ったりしますから。」
ああ、そういえば2度目に会うなり
俺が対人恐怖症と外出恐怖症と知っていて
いきなり俺を外の世界へ連れ出したんだった。
でも、無責任に、じゃない。
手を取って、縋らせてくれて、一緒に出てくれた。
困らせるだけなら雑踏の中にひとり放り出すだけでよかったはずだ。

「無茶じゃなかった・・・です。
 たぶん意味があって、お考えがあって、優しい・・・です。」
「そうですか。」
穏やかに優しく林さんは笑った。
「貴方も聡明で優しい方だと私は思いますよ。」
耳を疑う言葉を聞いた気がして思わず林さんを見上げる。
「広夢様は貴方に自分を見ているのかもしれないですね。」
「え?」
広夢様が俺のどこに同じ物を感じると言うのだろう。
どこも完璧で美しくて非の打ち所のない人と俺なんかに。
「そうですね。」
俺の疑問を悟ったように少し首を傾げて林さんは続ける。
「広夢様は完璧な方に見えますよね。」
「はい。」
「完璧ゆえにひとつのほころびがあると危ういものです。
 はたから見ればたわいもないことが大きな傷になってしまう。
 広夢様もそんな傷を抱えていらしたから貴方を放っておけないのでしょう。」
「広夢様、が、傷を?」
抱えているのだろうか?
先日見た横顔に零れた涙を思い出した。
悲しく美しく胸が痛くなるような透明な涙。

「今は傷も癒えたようですけれど
 傷跡は心に残っているのかもしれません。」
「傷はほんとうに癒えたのですか? 
 どうやって?どんなふうに?」
傷跡があるなら俺がどうにかできませんか?
「傷は突然消えたみたいです。
 或る少年の存在によって。」
少し悲しそうにも嬉しそうにも林さんは微笑んで言った。 
「しょう・・・ねんってどんな・・・」
「いいえ。このくらいにしておきましょう。
 少し感傷的になって話しすぎてしまいました。」
「林さん、教えてください。
 広夢様にとってその人は・・・」
「広夢様の学校の先輩ということでしたよ。
 詳しいことは私には何も。」
「学校の・・・先輩・・・」
「広夢様もそのうち貴方にならお話になるかもしれませんよ。」
「俺に?」
話してくれるだろうか?
聞かせてくれるだろうか?
あの涙のわけも、その傷跡のことも。
「では、」
「林さんっ」
「はい?」
「広夢様はその人を待っているんですか?
 物置と仰った建物のひとつで?」
「・・・・・」
林さんが驚いたように目を見開いて振り返った。
林さんの動揺するような仕草を初めて見た気がする。
けれどそれはごくごく一瞬のことですぐに穏やかな顔に戻る。
「・・・私には解りかねますがそうなのかもしれませんね。
 とても不思議な少年でしたから。」
つけ沿えた言葉の意味が解らなかったけれど
たぶん、きっと、その人は広夢様にとってすごく、かけがえのない人だ。
どうしよう胸がどきどきする。どうしよう胸がこんなに苦しい。どうしようどうしよう。
俺がその人を広夢様に逢わせることができたら広夢様は俺の名を呼んで笑ってくれるかな?

「はやしさんっ」
部屋を出て行く林さんの背に追いついて呼び止める。
「なんですか?」
「その人はどこにいるんですか?
 俺は、俺に、その人と広夢様を逢わせることができないでしょうか?」
バカなことを言っていると俺自身思う。
外出恐怖症で、対人恐怖症の俺が、
こんなに危険のない美しい屋敷でも部屋から出るのに勇気を必要とする俺が、
場所を聞いたところで、誰かと知ったところで、飛び出して探しにいけるわけがないのに。
案の状、林さんも今一度目を見開いて息を飲んだ。そしてゆっくりなだめるように言った。

「私は存じません。きっと広夢様も。」
ああ、そうなのだろう。
広夢様が逢いたいと望んで逢えるならあんなところで涙など零していない。
「あ、すみません、すみません・・・」
「いいえ。広夢様を気遣って頂きありがとうございます。
 これからもずっととは申しませんがそばにいて差し上げてくださいね。」
「ずっと・・・いられるなら・・・いたいです。」
「ありがとうございます。
 けれど、広夢様にはいろいろお考えがあるようですよ。」
「いろいろ?」
俺を放り出す算段だろうか?
やっぱり俺みたいなのを置いて置けないということだろうか?
「そんな悲しい顔になるようなことではありませんよ。
 ふふ、」
「え?」
「いえ、今日は3歩ほど部屋から出られましたね。
 広夢様が仰っていましたよ。
 もっと自分から出歩けるようになったときには、
 ぜひ広夢様のお部屋までひとりでいらして欲しいと。」
「俺がひとりで・・・」
「ええ。今日の3歩の報告を聞いたらきっと喜ばれますよ。」
俺が部屋を出たら広夢様が喜ぶ?
俺がひとりで広夢様の部屋に行く?

環境により併発した外出恐怖症と対人恐怖症。
外に逃げ出せばなんてことないはずだったのに。
怖いものなんかなにもないだろう?広夢様が教えてくれた。

一度だけ広夢様を追ってこの部屋を飛び出したじゃないか。
この屋敷は穏やかで優しくてまるで幸せな夢の中にいるようじゃないか。

怖がるような要素なんかひとつだってないのに
広夢様が俺を待ってくれているのに
踏み出さないなら俺なんかいらない。

俺はドアを開いて階段に一歩足を掛ける。






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