「ねえ古泉君、昨日の球技大会で古泉君のクラスの
サッカー途中交代して出た人なんていう人だっけ?」
家庭科部の部活として調理室で餃子の皮を作りながら
女子部の佐伯さんが聞いてきた。
「月代のことだと思うけど、何?」
俺は豆腐を茹でながら返す。
「あの人って一度ここで見かけた人だよね?」
ニラとニンニクと白菜を細かく刻みながら
もうひとりの家庭科調理部員である佐々木さんも会話に加わる。
そういえば以前ここで月代にパスタの試食をしてもらったときに
忘れ物を取りに来た佐々木さんと逢ったことがあった。
その日は部活のない日で俺が自主的に使ってたから
全くの偶然ではあるけれど実は月代はここに割りと
頻繁に現れては試食したりだべったりしていたりする。
不思議なことに佐伯さんや佐々木さん他の女子が
いるときはセンサーでもついているかのように現れない。
「ああ、そうね。うん。それそれ。」
「なに?佐々木さん、逢ったの?」
「うん。なんか不思議な人だった。」
「不思議?月代が?」
「う~んなんていうかふわっとしてたっていうか。
かっこよかった気がするんだけどなんか印象が曖昧なのよね。」
水品が一目惚れした月代の第一印象が、曖昧・・・ねぇ。
「見てた友達はすっごいかっこよかったって言ってたよ。
活躍も見た目も。
次の試合も観に行ったのにいなかったってがっかりしてた。
そんなに活躍してたらしいのにどうして出てなかったの?」
「代役で出てたらしいよ。
手当てしてた人が戻ったからひっこんだみたい。」
「ああ、そうなの。」
「へえ、改めて見て見たい気はするね。」
この部の女子2人は男子にキャーキャー言うタイプじゃない。
だから関心をもたれる月代の話題はちょっと不思議な気がした。
とはいえ基本他人情報から入るので本人達はいい意味で冷めている。
だから「友達なんでしょ今度連れてきて」なんてくだらないことは言わない。
「うちのクラスはバスケで優勝したよ。
私の出たテニスは1試合目で負けちゃったけど。」
「私は決勝まで行ったよ。ソフトボール。
優勝はなかったけどね。古泉君は?」
「野球が優勝したよ。俺はバスケで負けたけど。
身長だけでバスケに決めるのいいかげん辞めて欲しいよ。」
「あはは。あるよねそういうの。」
「体格いいとキャッチャーに決められたりね。」
ほらもう話題は別のことに移っている。と思えば、
「野球で優勝したチーム、古泉君のクラスだったんだ。
かっこいい子がいたって騒いでる子達いたよ。」
「あ、うちのクラスでもいた!ピッチャーやってたって。
あとすごいの打ったって言ってた。」
「ピッチャー・・・ねえ。3人が交代でやってたからなぁ。」
「サッカー部の子って聞いたよ。
あれ?サッカーも出てたって言ったんだっけ?」
「私は図書委員してるの見たことがあるって聞いたよ。
確かめるために今日こっそり男子棟の図書室行くって。」
「・・・それ月代だわ。」
また月代に話題が戻ってる。
つーかわざわざ見に行くもんかね。
運が良いのか悪いのか今日は月代の図書委員担当の日だ。
「まあそういうのイベント後の熱病みたいなものだから。」
「うんうん。一過性の流行みたいなものだから今だけだよ。」
「だといいけどねぇ。」
俺はひき肉を唐辛子とごま油で炒めながら返す。
水品と上杉の熱病はひとまず終わりが見えないからね。
サッカー部で野球でピッチャーやってた人、だったなら水品なのにね。
水品がたとえば可愛い女の子に告白とかされちゃったら
水品どうするんだろうな。熱病冷めちゃうかな。
冷めないだろうな。
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