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あまり気にしてはいなかったのに
消えないこの痣たちのことが鬱陶しくてたまらなかった。
だって消えないと彼に、広夢様に逢うことができないのだ。
部屋に閉じ籠っている間いろんな、ほんとうにいろんなことを考えた。

あの言葉は、俺を捨てるための口実ではないか?
すでにもう、俺なんか見限ったという意味ではないか?
俺なんかいらないとあの時決断を下されたのではないか?

痣が治ってあの人の前に立った時、自分はどんな決断をくだされるのだろう? 

俺は痣が消えることを望みながら
この痣が消えることを恐れている。

「随分薄くなりましたね。
 明日には広夢さまにお逢い出来ますよ。」
食事を持ってきてくれた執事の林さんが優しく告げた。
広夢様に逢った日から、広夢様と逢わなくなってから、約1ヶ月が過ぎていた。

「ちゃんと引きこもってたんだ?1ヶ月も?」
「はい。」
「なにしてたの?」
「なにも。」
「なにも?」
「少し、いろいろ、考えていました。」
「へえ。なにを?」
「これから俺はどうなるんだろう、と。
 広夢様のお眼鏡に適わなかった俺は…」
「適わなかったって言ったっけ?」
「え?」
「適いはしなかったけど適わなくもないよ、彩。」
俺の新しい名を
俺の新しい名をくれた人が
ゆっくり、酷く優しく、呼んだ。
こんなに幸せな気持ちがあるのか。
「広夢さ・・・ま。」
「林はともかく歳も近そうなあんたに様とか呼ばれると
 なんかのプレイみたいでちょっと気持ち悪いな。
 いいよ。呼び捨てで。」
「そんな、」
「じゃーさん。さん、ね。いい?」
「はい。広夢さ…ん。」
「んじゃ彩、脱いで?」

1ヶ月前と同じ場所で
1ヶ月前と同じことを言われる。
1ヶ月前と違うのは脱いだ肌に痣がない。
痣がないだけで褒められた身体でもない。
あばらが見えてて骨ばったただの痩せた身体。

「うん。消えたみたいだね。」
「は、い。」
「歳いくつなの?
 親ですら覚えてないらしいけど?」
「たぶん10・・・7か8だと。」
「まじ?」
「もう少し上かもしれません。」
「俺よりさらに年上だとはね。
 小さいし細っこいし童顔だし。」
「すみません。」
「せっくす経験は?」
「え、セ・・・あ・・・ありません。」
まさかこんなことを聞かれるとは思わなかった。
「虐待っつっても育児ほーきと暴力ってことか?」
「あ・・・そうらしいです。」
「なんだよ他人事だなあ。
 自慰は?まさかないなんてこと無いよね?」
「あ、それは・・・あ・・・」
「やってみせてよ。いまここで。」
「え?」
「素っ裸なんだもん。ついでに、ね?」
「あ・・・」
冗談だろうか?本気だろうか?
薄い笑顔の真意が解らない。
人前でそういうことをするのは変なんじゃないか?
それとも俺がそう思っていただけで普通のことなのか?
「できない?」
「あ・・・」
「できないならいいよ。」
いい?
いらないってこと?
捨てられる?放り出される?
なんでもするから。なんでもするから。俺に呆れないで。
「でき・・・ます。」
俺なんかのこんな姿がなぜ見たいのか解らない
辱めたいのか、ただの興味か、他にもなにか理由があるのか。
握ったところで、
「もういいや。」
広夢さんの手が俺の手を止めた。
「あ、の・・・」
「服着て。」
「あ、で・・・でも・・・」
「いいから早く。」
「はい。」
再び服を纏った俺の手を取って
「お腹すいた。ラーメン食べに行こ。」
広夢さんが言った。

ムリだと思った。
俺は対人恐怖症すらまだ完全に治ってもいないのに
まして外出恐怖症は全く克服していないのにムリだ。
ここに来た時だってでっかい黒いトランクに入れられて運ばれて
着いた先がこの屋敷だったというだけで俺が外出した意識は無い。
なのに、それなのに、広夢さんは、
「ラーメンだよラーメン。食べに行くに決まってンじゃん。
 行列ができるほど人居るよ。排気ガスが充満してる繁華街だよ。」
はははっと笑う。
びくつく俺を力強く車の後部座席に詰め込むと「出して」ともう一度笑った。

解ってる。解ってるけど、止まらないんだ。止められないんだ。
さっきから俺の脚も手も背中も胸も痙攣してるみたいにブルブル震えてる。

「震えてるの?」
「あ・・・は・・・すみま・・・俺…」
「歯の音もあってないね。」
「すみま・・・すみませ・・・」
「外、どうして怖いの?」
「人が怖・・・て・・・知らないもの…ばか…で・・・」
「そりゃ他人ばっかだもん知らなくて当然じゃん。」
「何・・・され・・・とか・・・路地裏・・・とか・・・ひそ・・・」
「誰もおまえなんかになんかしようとなんてしないよ。
 彩、自意識過剰だなあ。
 考えてもみなよ彩が今まで引きこもって受けてた虐待
 それ以上の怖いことなんかそうそうこの世に落ちちゃいないよ。」
「ひろ・・・む・・・さま?」
「引きこもらずに逃げればよかったのに。
 外出恐怖症なんてただの妄想に過ぎないのに。
 ほら、ついたよ。降りて出かけよう。外の世界にさ。」

車の中は箱の中にいるようでまだそれでもましだった。
窓には黒いシートが張られていたから外と遮断されているようだった。
それなのにその箱が開けられて触れることの無かった外の世界とつながてしまった。
「ひろ・・・むさま」・・・すみま・・・せ・・・俺・・・む・・・」
「無理じゃない。おいでバカな子。」
広夢様の腕に抱えられて降ろされてしまった。
背が高く格好のいいこの人は力も強いらしく
俺がどんなに抵抗を見せようともものともしない。

「あ・・・」
眩しい。人がたくさんいる。怖い。怖い。怖い。
「俺といるんだから平気だよ。
 俺は人目なんか気にしないから好きにつかまってなよ。」
言われて俺はものすごく広夢様にしがみついていることに気付く。
そのうえぶるぶるぶるぶる震えているものだから必要以上に他人に見られている気がする。
「すみませ・・・すみませ・・・広夢様・・・」
「様付けにもどっちゃってるし。」
しがみつい引きずられるように少しずつ歩く。
誰かと一緒なんだ。
広夢様と一緒に外の世界を歩いているんだ。
怖いのに怖いけど少しずつだけど震えが小さくなるのか解る。

「ここだよ。」
というと行列ができたラーメン屋へ向かった。
行列を無視して広夢様はその脇の路地裏に入った。
俺は広夢様にさらに身体を寄せて目を閉じて進んだ。
段差を上る感覚があって薄目を開けると階段を登っていた。
行き着く先の簡素なドアを開けて入る広夢様に続いて入った。
「こんにちは。」
「越乃様いらっしゃいませ。
 お待ちしておりましたあちらへどうぞ。」
「ありがとう。
 いつもの2人分お願いします。」
「かしこまりました。少々お待ちくださいね。
 今、下へ言って参りますので。」
広夢様は俺を奥の個室になった席へ連れて行った。
「ひろむ・・・さま?」
「彩、よくがんばったから今日はここまで。」
「え?」
「行列並ぶのはさすがにハードル上げすぎだし
 俺は並ぶ気なんかまったくないからね。
 そのうえ狭いトコで縮こまって食べる気もしない。」
「あ・・・」
「でもここ美味しいから、
 トクベツな入り口とトクベツな席を用意してもらったってわけ。
 だいたいあんな調子じゃ彩、おまえまともに箸も持てそうにないし。」
「ありがとうございます。」
俺の言葉はこれでいいはずだ
俺のために広夢様は連れ出してくれたのだ。外の世界に。
「あんなに嫌がってたのに。」
くすりと笑った。
なんて意地悪でなんて美しい笑顔なんだろう。
「俺の・・・ためと・・・広夢様・・・」
「うぬぼれないでよね。
 外出もできないような所有物なんていらないからだよ。」
それはやはり俺のためだ。
俺が使える人間でいられるように。
俺が少しでも広夢様の役に立てるように。
「ありがとうございます。」
「やっぱ素直すぎてつまんないね。
 で、どうだった?」
「え?」
「外の世界は。」
「怖かった・・・です。」
「なにが?」
「なに・・・が・・・なにも・・・」
「じゃ怖いことなんかないじゃん。」
「人の目と・・・たくさんの人と・・・車・・・自転車とか」
久しぶりに目にしたたくさんの物事を並べてみる。
「なに?それらが彩になんかしたわけ?」
「してない・・・です。」
「してないでしょ。」
もう一度広夢様は美しくくすっと笑った。
「はい。」
「彩は自意識過剰なんだよ。
 誰も他人になんか関心のない第三者なんだよ。」
そうだ、俺だって不特定多数の人間に怯えているだけで
広夢様以外の人間に思い入れなんかないじゃないか。
「はい。・・・そうですよ・・・ね。」
「そんなもんだよ
 あ、ラーメン来た。食べるよ。頂きます。」
「いただき、ます。」
手はもう震えてなくて
心音ももう落ち着いてきてて
いい匂いと湯気に包まれて食べた。
俺はこんなに美味しい食べ物を知らない。
俺はこんなに意地悪で優しい人を知らない。
俺はこの日この人と食べたラーメンを死ぬまで忘れない。
ううん、死んでも忘れない。
「ラーメン食べながら泣くなよ。
 味わからなくなるでしょ?」

広夢様は箸を止めずに
空いた方の手で取り出したハンカチを俺に差し出した。
人に優しくされることに慣れていない俺はさらに泣くことしかできなかった。 

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