すげー秘密を知ってしまった。
俺だけじゃ隠し切ることなんか出来ないから
古泉が秘密を分かち合ってくれたのには感謝だ。
『ファーストキス』
知らなかった上杉ってホモなのか。
あれ、違うのか?や、ホモだよな。
だって月代男だし、上杉も男だし。
なのに上杉は月代に告白したいくらい好きなんだし。
いまいちピンと来ないのは上杉がホモホモしくないせいか?
ってホモホモしいってなんだ?ホモっていったい何なんだ?
「なー古泉」
「なによ。またくだらないことでも考えてたんでしょ?」
古泉は相変わらずカマ口調だ。コイツがホモってんなら解る。
「うっせ。上杉ってモテるんだろ?」
「みたいね。生徒会関連で女子と接する機会多いみたいだし
成績上位者にいつもトップで名前貼り出されているし
無理もないんじゃない」
「・・・・・・」
「笑わないクールな感じがいいんだって」
「ふうん」
「笑わねえクールな優等生上杉が
へらへら笑ってばっかの月代を好きだとか何の冗談だよ」
「・・・・・・つっきーも最近人気あるみたいよ。
ほら、体育祭の活躍で目立っちゃったから。
それとね、つっきーがあんな感じなのは水品くらいよ」
「は?俺にくらいって何がだよ」
「そんなにへらへら笑ってばっかりじゃないってこと。
ときどき息をのむほど綺麗で凄味を感じるのよね」
怖いくらいに。と古泉は続けた。
「そーかよ」
言われてみて
凄味のある月代の目を知っている。
スポーツテストで勝負を受けた真剣なあの目。
綺麗というならそういう表現で言えなくもない姿。
桜の木の下で見た月代は儚いとさえ映ったんだ。
「だからってさなんで月代?
そもそも女にモテる上杉がなんでホモかと」
「下世話」
ぽかりと古泉に叩かれた。
まぁ確かに下世話だな。
「だってさーその・・・・・・上杉、月代とキスとかしたいとか
思ったりするのかなぁ、とか」
「大下世話。水品が言うな」
ぽかりと古泉にもう一度叩かれて睨まれた。
そうなんだけど気になるじゃん。
「じゃあ水品はどうなの?」
「は?なんだよ俺がなに?」
「水品はつっきーとキスしたい?」
「は?なんでそんな質問になるんだよ!」
「どーよ?気持ち悪い?」
考えた。考えたこともないけど考えた。
男同士がオッサン同士とか考えるとうえぇって思う。
けど、月代とキスして気持ち悪いかと言えば別にそうでもない。
月代とは普通に手ぇつないだり肩組んだり日常茶飯事だしな。
おいまて。
でもキスは別だろ。
普通男同士でしないだろ。
つか俺ファーストキスまだだから。
「想像できねーもん。経験ないし」
チェリーボーイと知られている古泉になら言える。
「あるよ」
「は?」
「水品、キスしたことあるよ」
「はぁぁぁぁぁぁああああ?」
古泉は開いていた料理本をぱたんと閉じて
机に伏せから俺に向き直った。
「だからちゃんと答えて、気持ち悪い?」
気持ち悪くは、ない。んだと思う。
気持ち悪いなんて思ったら上杉に悪いと思ったわけでもなくて
上杉と月代のキスは不快なような気持ちがしなくもないけど、
俺と月代がキスと思えば不快どころか・・・・・・どうした俺。
「別に」
なんか顔が熱くなってきたからぶっきらぼうに言った。
「そう」
「で、なんだよ。俺キスしたことねーし」
「してたよ。月代と」
「はああああああああああ???」
「こないだ俺んちで鍋したじゃない」
「へ?ああ」
「そんときお酒入っちゃって水品がつっきーに絡んでたよ」
「ままま、まさか」
「キスしなきゃ脱がすとか言ってさー」
「おおお俺がっ?」
「随分積極的だったけど?」
「まじで?まじで古泉?まじで?」
「まじもまじ。つっきー押し倒してタイヘンヘンタイだったよ」
頭の中が真っ白になった。
鍋のとき確かに記憶が抜けてる。
頭を巡らせても記憶は戻らない。
俺が月代を押し倒してキスした?
俺が月代にキスをせがんだ?
「水品の考えで言うならどこから見てもりっぱなホモだったね」
古泉が俺に止めの一発を放った。
「てか、つっきーにはチュウ
何度も何度も寝付くまでしてたのに
俺には来なかったよねぇ。なんでかなぁ?」
古泉が俺に止めの二発目を放った。
もう勘弁してくれ。
「そそそそそ・・・・・・そのこと月代は・・・・・・」
「勿論、覚えてるでしょうね」
穴があったら入りたい。
なくても掘って入りたい。
つーか鍋したの1ヶ月もまえじゃねーか。何を今更知っちゃったんだよ。
「あ、チャイム鳴ったし行こうか」
日直仕事で月代がいない休み時間の屋上で
下世話な話を持ち出したばかりにとんでもないカウンターを食らった。
俺のファーストキスは月代なんだそうだ。しかも俺が迫ってだと。とんでもねぇ。
教室に帰ったら上杉と目が合った。
申し訳ない気持ちとよくわからない高揚感があった。
遅れて席に着く月代の顔は見れなくて、
でも背中や髪や仕草とかがいちいち気になって
授業に集中なんかできなかった。ちくしょう月代め。
キスってなんだろうな。キスってどんなんだろうな。
月代とどんなキスしたんだよ俺。
変えることのできない事実なら
覚えていないことを悔しく思った。
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