俺の名前は水品朗(みずしなろう)。
昨日、直見高校に入学したぴかぴかの1年生。
特技も趣味も好きなものも将来の夢も全てサッカー。
『花散らす春嵐』
昨日は土曜で入学式。
今日は日曜で学校は休み。
寮は二人部屋で生田というのがルームメイト。
こいつがクラスも同じでサッカー部希望らしい。
つまりは何においてもずっと一緒になるわけだ。
生田本人はいいやつそうだけどさすがにうざい。
で、朝、ランニングついでに学校へ寄ってみた。
寮から近いし広いグラウンドも午前中は使い放題だ。
軽く汗をかいて気が付けば雨模様。
ぽつぽつと雨粒が降り出した挙句、
強い風まで吹き始めた。
その風に乗って飛んでくる桜吹雪。
昨日は満開だったのに散るの早えな。
と、折角だから散り際を看取りに桜並木に向かう。
雨粒は大きくなる。
風は嵐のように強くなる。
桜の花びらが吹き荒れて
薄紅色が視界を染める中、
俺は見た。
不規則に上昇したり右往左往する
風と雨と花吹雪の舞い散る中に
佇む、人影。
人なんだけど、
制服も着てるし、
うちの生徒なんだけど、
感じたことのない存在感。
その横顔は白く儚く消え入りそうで
その頬を雫が伝って喉元に落ちた。
俺はなんでだか
雨粒じゃなくて涙だと思って
俺だったら一人で泣いてんの
人に見られたくないなと思って
あっちから気づかれないように隠れた。
そんで、あれが幻だったんじゃないかって
目をこすってもう一回覗いてみたら
もう、いなかった。
なんでだか
隠れるんじゃなかった
目を離すんじゃなかった
って酷く後悔した。
その後も雨風は好き勝手に桜を散らし、
翌日にはほとんどの花びらを飛ばしてしまった。
ああ、儚いってこいういうことを言うのかもしれないと
桜を思い、
幻を思った。
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