「友達なんかいねーんだと思ってた。」
「え?」
「したらあっさりバスケ部の奴等とバスケしてっし。」
「遊びに加わらせてもらっただけだよ。
一緒の科目受けてる知り合いいたから。」
「知り合い、ねえ。
友達がいねーっつーのとは違うのか・・・」
「なに?」
「友達なんかいらねーんだ、おまえは。」
「なにそれ?」
「遥がいりゃー後はなんでもいーんだろクソガキ。」
「そうだね。」
肯定しやがったよ。
「つーか俺に話しかけて来るなよ。
遥が嫌がるだろうが。」
「だから何で?」
「俺の素行が悪ぃからだよ。
言わすなよ。」
「どう悪いの?」
「言うかよ、煩ぇぞ。」
「ふうん。
俺は別に友達いないこともないよ。
けどここではあんまり親しい友人は作りたくないんだ。」
「あ?」
「きっとここには短期間しかいないし
俺はのめりこみ体質だから離れることに耐えられない。」
「のめりこみ体質、ねえ。」
それを言うなら遥も、か。
いまだに俺に愛想尽かさず親友やってるわ、
白雨を手放せずにのめりこんで守りこんでいる次第だ。
「なんだ仲いいなおまえら!」
噂をすればなんとやら。遥が来た。
「俺は悪くない。
こいつから寄って来たんだ。」
「白雨に懐かれるとは、やるな親友。
悪くないってなんだ?」
「遥、俺が臣・・・さんといると嫌なの?」
「なんでだ?」
「素行が悪いからだって。」
ぽかんとしてる遥も遥だが
あっさり告げる白雨も白雨だ。
俺が言ったとは言えおまえが言うなよ。
「素行?
あー臣、俺は気にしてねぇよ。
仲良くしてくれんなら俺は嬉しいぞ。」
「だって?」
「ふん。」
いーのかよ。
いーんだろうな。
「最初、紹介すんの躊躇したこと気にしてんなら、悪かった。
別に今に始まったことじゃねーのに沙羅の言ったこと意識しすぎた。」
「沙羅がどうかしたの?」
「あーこいつなー万年片思い選手なんだよ。沙羅に。」
言うなよ。と思うけどまぁいいどーせすぐ知れることだ。
「万年ってことはないんじゃないの?」
「好かれたことがねーんだよな。」
痛いことさらりと言ってくれる。
白雨も同じこと思ったのか「遥、無神経。」とか小さく呟いた。
へえ、庇ってくれんのかね?気遣われたのかね?この俺を。
「別にいまさらだ。
沙羅に好かれる方法知ってたら教えろよな、クソガキ。」
白雨は相変わらずまつ毛のびっしり伸びた捉えどころのない瞳に俺を映している。
あんまり眺めてると正体を持って行かれそうな憂いを湛えたビー玉みたいな瞳だ。
「こいつはこーいうやつなんだよ。」
遥が能天気を装ってがははと笑った。
空気が重くなりそうになると向日葵みたいに笑う太陽のような男だ。
「で、こっちにいつまでいるんだ?」
授業が一緒になったから隣に座った遥に聞く。
「日本の学校がサマーバケーションの間だけいる。」
と遥は小さな声で返し「次はウインターバケーションかな。」と付け加えた。
今までは治療だなんだと全然逢えなかったからまた直ぐ逢えるのは不思議だ。
「へえ、案外しょっちゅう逢えるようになったな。」
「だな、嬉しいだろ?」
「まあな。」
俺は自分を割と薄情な人間だと思う。
けど遥と沙羅に関して言えば諦めがつかない。
そういうのを白雨は「のめりこみ体質」っつってた。
んじゃ、俺は白雨と同じ性質なんだろうか?と考えて頭を振る。
違う、な。
違うんだ。
俺は妄想でのめりこめる。
側にいたいだとか離れるのが辛いとかはない。
白雨のは(遥もか)離れられない症候群だろう。
そうか、あいつら駆け落ちしかけたことあるんだっけか。
その時遥の側を諦めたのは白雨だったからもう嫌なんだろう。
「俺もだ。」
遥は俺にたまに逢うことを嬉しいと言ってくれるから俺は充分なんだ。
ここでの生活ギムナジウム制だ。
土日はダウンタウン行きのバスが何本かあるけど
平日はほぼ学園の敷地内で過ごすのが基本だ。
売店もカフェも本屋もだいたいそろってるから不自由はない。
もちろん寮ではコックが朝昼夜はたまた夜食やアフターヌーンティーまで用意してくれる。
まさにおはようからおやすみまで至れり尽くせりのフルコースだから過ごしやすい。
それそれのカリキュラムに合わせたスケジュールやルームが用意されているのも
ひとつのことを集中して学んだり取り組んだりするには都合がいい。
俺の部屋は寮にも一応あるけれど多くはアトリエで過ごす。
校舎の奥まったところに変わったデザインでアーチ型の一室がある。
光をたくさん取りこめるようにガラスが多めに貼ってあってその奥がロフトになっている。
かなり広いので居住空間としても使えるるし何と言ってもキッチンまであるからコーヒーも飲める。
作品にのめりこんだときに時間も人目も気にせずに死ぬほど集中してできるのも気に入っている。
その上、そう、白雨が逆光に立ったあの日にいた美術室がすぐ近くにあるから画材にも不自由しない。
「なあ、この後、臣のアトリエ行ってもいい?
前は寮と往復してたくせにここずっと入り浸りなんだろ?
臣訪ねて寮の部屋行ったら隣の奴にそこずっと留守だって言われたぞ。」
「ああ、居心地いんだ。
それに広いし必要なもの全部揃ってるから。
来てもいいけどクソガキは連れてくるなよな。」
「なんで白雨は駄目なんだ?
つーかなんで白雨のことクソガキって言うんだ?」
そーいや不思議だったんだ。
遥の前では言わないようにしてたんだけどこないだ目の前で
白雨もいる目の前でそう言ったときに遥がとがめなかったことが。
今だって「なんで?」のクエスチョンな顔はしてるけど怒ってるふうでもない。
そんだけ大事で宝物で大切に守ってる白雨をそう呼ぶとこは怒るんじゃない?
「俺に近づいてきたからそう呼んだだけ。
遥が紹介すんのを躊躇するような奴に自ら近寄るなんざクソガキのすることだ。」
「臣、だから・・・」
「解ってる。もーいいんだろ?
それは解ったからせいぜい仲良くさせてもらうよ。
クソガキって呼ぶのもやめろって言うならそうするよ。」
「白雨はそれでいいみたいだからそれはいーんだ。
なんかそう呼ばれんの嬉しいみたいだし。」
「は?クソガキって呼ばれるのが嬉しいのか?
やっぱクソガキだ。」
「そのクソガキはクソガキだからアトリエ連れていっちゃいけないのか?
つーかそもそもなんでクソガキなんだ?」
「なんでだろうな。」
「おいおい・・・」
「悪口っぽいこと言ってないと甘やかしてみたくなるからかね?」
「俺に聞くなよ。
・・・そうなのか?」
「解らん。
まあでも遥の宝物だけあって
なんか独特の空気持ってるよな。
そういうのを警戒っつーか敬遠してのことかもな。」
「嫌って呼んでんのじゃないなら好きに呼べばいーよ。」
「いーんかよ。」
遥が笑ったから俺も気が抜けたように笑った。
「その敬遠でアトリエも禁止、なわけ?」
「近づくとその分傷つける確率も上がるからな。
俺は遥の大事なもん傷つけるのだけは絶対嫌なんだ。
そう思うことは自意識過剰かもしれねぇけど確率は減らしときたい。」
「臣は、ほんと臣だよな。
白雨はああみえて案外強いぜ。」
知ってるよ。
そんでさ、遥。
逆にさ、俺が傷つくとおまえも傷つくのも、俺知ってるよ。
ああ、側にいようがいまいが、俺もおまえものめりこみ体質だな。
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