「絵、描く人なんだ?」
言っておくけれど俺から近づくのはやめようと思ってたんだ。
遥の宝物?だっけかそう言うのに。
俺は親友として遥を好きだし何故か無くならない信頼も裏切りたくない。
遥が俺に逢わせたくなかったから紹介しなかったんなら受け入れようと思ってた。
出窓だけが取り柄の美術室という名の油臭いアトリエでキャンパスを削っていたら声がした。
「誰だ?」
入り口付近で光を背負って立っているので逆光で見えにくい。
「白雨です。月代白雨。
ここから次の授業で使う画板、取ってくるように言われたので。」
「ああそう。」
遥の大事にしてるクソガキだ。
「見てもいい?」
「は?」
「描いてる絵。」
「描いてねぇよ。元の絵削ってんだ。
「削ってるの?」
「ああ、で、その上に次の絵を描く。
油絵なんてそんなのの繰り返しだ。」
「そうなんだ?
前の絵の色残らないの?」
「上塗りすんのが油絵だ。いくらでもやり直せるのが油絵だからな。」
「そうなんだ。」
沙羅と俺の関係は死ぬまで修復不可能なんだろうなとか思いながら答える。
「クソガキ。
俺といると遥に怒られんぞ。」
「なんで?」
「知らねぇほうがいいこともあんだ。
さっさといるもん持って立ち去れクソガキ。」
白雨は大きな瞳を一回見開いて
「うん。失礼しました。」
って出て行った。
敬語だったりタメ口だったりよく解らんガキだ。
クソガキって呼び名にふさわしくない
行儀のいい綺麗な子供だ。
どこか沙羅に似た綺麗な。
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