「白雨描くんだって?」
昨夜か今朝か白雨から聞いたのか遥が
理学室で隣の席に腰掛けながら言ってきた。
「ああ、まあな。」
「臣が人物画描くの珍しくね?」
「きちんと描くわけじゃねぇから。
それこそ人か物かも解んねぇ抽象画だぞ。」
「それってモデルいんのか?」
わははと笑って白雨と同じことを遥が言う。
「いんねえな。
別にどっちだっていいんだ。
そんなんでもよけりゃやってくれって言った。」
「ふうん。
白雨がいいならいんじゃね?
アトリエよんでもらえて嬉しそうだったぞ。
遥、俺、臣さんのアトリエ入れてもらったんだ。ってさぁ。」
「ふん。ま、なんか、見渡してたな。」
「なんか懐いてるみたいだからよろしくしてやってくれ。
つーか、昨夜送ってくれたんだろ?寄ってくれればよかったのに。」
「それもあいつが?」
「いんや、ベランダで月見てたらおまえらが帰ってくるのが見えたんだよ。」
「ああそう。」
「つれないねぇ。
臣、俺は白雨の保護者である前に臣の親友だぞ。
あんまりよそよそしく気遣われたら寂しくて号泣すんぞ。」
ああ、もう、ほんと、こいつらときたら。
「解ってんよ、親友。
その抽象画も気晴らしに軽く描いてっから
いつでも気軽にアトリエまで覗きに来てくれ。」
「根詰めて描く方のじゃねーのか?」
「提出用のは人前で描かねー主義なんでね。」
「そうか、気が向いたら寄らせてもらう。
多分、気が向くんだろーけどな。」
「なんだそれ。」
「ところで白雨、ヌード?」
「・・・俺をなんだと思ってんだ。
抽象画描くのに脱がすかよ。」
「抽象画じゃなかったら脱がすかー
今度抽象画じゃねーのも描いてくれ。
絶対気が向いて見に行くから。ヌード。」
「俺の絵じゃねーのかよ。」
「白雨脱がしたらちょっとびっくりするかもな。」
「は?」
「背中にでっかい傷あんの。
義母に昔切りつけられた跡。」
「は?誰のはなし?」
「白雨って言ったじゃん。白雨。」
あのお綺麗な人形みたいな白雨のことか?
あれの背中に人に切りつけられた跡?しかも義理の母?
「虐待か?」
「どーかな。
常習性はなくて刹那的なもんだったらしい。
この話しするとき白雨のやつ何故か誇らしげなんだよ。」
「は?なんでだよ?」
「妹守った背中なんだってさ。
妹守ろうとして身体を入れたから切れたとか色々言ってたけど
それでも妹は無傷でその義母ともそれきりらしいから守ったことになるんだろうな。」
「トラウマとかは・・」
「全くないらしい。
線が細くて華奢に見えるけど強いんだ白雨は。
何気に男前なとこもあってそういうのに俺も何度も救われた。」
「ふうん。
遥がそう思って何度もそう言うならそうなんだろうと思うよ。
そんでそのぶん俺は俺の都合であいつに感謝しとくよ。」
「臣の都合?」
「遥の親友っつー都合。」
「・・・やっぱおまえ最高の親友だよなぁ。
なのになんであんなに不憫な恋愛してんだろうなぁ。」
「余計なお世話だ。」
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