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夢なんか見ない。

今在る俺が俺で。
あの時の俺も俺だけど。
取り戻したくてもできないもんだって解ってる。

知ってくれなんて思わない。

ここは俺の居場所じゃない。
ここに俺は心なんか残さない。

ああ、早く日本に帰りたい。
あいつんとこに駆けつけて「ただいま」って早く言いたい。


『虚像3』


「おまえなんか大嫌いだ。」
なにこれデジャブ?
「知ってるよ。」
昨日と同じとこで同じ時間に昼飯食って本読んでたらまた来たこいつ。

「俺のことあの人に聞いてたのか?」
「は?」
「昨日食堂で!」
「ああ刀弥さん?聞かねーよ。なんでだよ。」
「聞いてないのか?」
「なんで聞くんだよ。いらねーし。」
「・・・っ!
 じゃあ何、話してたんだよ。」
おまえに言う義理ないんですけど。
なに言ってもつっかかってくるから面倒くさい。
とりあえず答えずにその場を立ち去ろうと立ち上がると
ぐい、と腕をつかまれて壁に押し付けられた。痛いんだけど。

「昔話だよ。これでいい?」
「どんな?」
「おまえいい加減にしろよ。」
「話せよ!」
「俺の大事な人の話。これでいい?」
「誰だよ!」
「ここにいない人だよ。
 おまえ知らないだろ。」
「知ってる!遥ってやつだろ!」
ああ、そっか。俺のこと知ってんなら
俺が金魚のフンみたくくっついて回ってた遥のことも知ってるか。
「だったらなに?」
「おまえべったべたくっついてたもんな!
 いっつも一緒にいてさ!見てて気持ち悪かったぜ!」
「・・・」
「他の奴なんか目もくれねーでよ。
 アレなの?おまえらできてたの?」
「・・・」
「なんも言えねーんだ?マジなのか?
 うわっ気持ちわりっ!汚ねえっ!」
「その汚えもんから手ぇ離せよ。」
「・・・っ。」
俺はよくひょろいって言われる。
それが逆に相手の油断になることも解ってる。
油断するだろう方向に力を加えれば相手は倒せる。
俺を押し付ける腕を身を避けながら俺のほうに引く。
これは俺の力じゃない。相手の力を利用しただけ。
それでも目の前のがたいのいいこいつは勝手にすっ転げた。
「なにす・・・」
「二度と俺に構うな。」
遥との関係を否定するのも面倒くさい。
よくもまあ他人のことでそんな想像できるもんだ。
気持ち悪いなら考えなきゃいいのにほんと解かんねえ。

「今度は刀弥とかいうおっさんとそーなるわけ?」

どんな思考回路してんだこいつ。

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感情がないわけじゃない。
感情を動かしたくないだけ。
一度感情が揺れてしまうと、
そこになんらかの気持ちが生まれるから。

いばしょとして求めないところに
よけいな思い入れなんか持ちたくないんだ。

たのむよ。放っておいてくれ。

『虚像2』

ああ、こいつもここにいるってことは
学校関連者の類なのか。

「ハクウ!ハクウ!」
うるさいなあ。
嫌いなら人の名前連呼するなよ。
「なんなの?」
面倒くさそうに返事をしたら
「俺を無視するな!」
とか言うんですけど。なんなんだ。
「なに?なんか用?」
「用なんかあるか!」
うわ。水品より意味不明だ。
水品のはなんか可愛げがあって構いたい感じだったけど
こいつのはなんかもうただひたすら面倒くさい感じだ。
「そんじゃ行くから。」
「待てよ!」
なんなんだよ。ほんと。
振り向いてじっと見たら、
「なんだ!?」だって。それこっちのセリフ。

「なんもねーよ。」
「・・・っ!」
もう構うのをやめて書斎に向かうことにする。
書斎とは名ばかりで図書室みたいなんだけど
学校とは違うから置いてあるソファーや長椅子が座り心地がよくて好きなんだ。
遥なんか読みながら長椅子でそのまま朝まで寝ちゃうことがよくあったのを思い出す。

本が焼けないために地下に造られたこの部屋は静かでほの暗くて
別世界に迷い込んだ雰囲気がある。
そこで空想の世界だったり、仮想の未来なんかが書かれた本を読む。
集中して読み始めると2時間3時間なんか軽く過ぎていたりする。

読み始めてどのくらいしただろう。
ふと人の気配を感じて本から視線をあげた。

またおまえか。

「いっつも本読んでるな。」
「それが?」
「・・・っ!
 おまえ性格悪いだろ!」
「知らねえよ。」
「なんか・・・雰囲気変わったな。
 前はもっとヤワな感じだったのに。」
一度本に落とした視線をもう一度あげてドア付近に立っている男を見る。
知り合い、か?
学校関係者ってことは親戚とまでは行かないまでも
父の仕事関連に携わる人の関係者なのは確かなんだろう。
だとしたらどっかで逢っていてもおかしくないし可能性も高い。
が、覚えがない。
「逢ったことあんの?俺と?」
「覚えてないのか!」
「・・・ない。」
嫌いだっつーから好都合だと構わないつもりでいたのに
追いかけてくるわ、人の名前連呼するわ、仕方ないから観念してみる。

「俺、君になにかした?」
「・・・してない・・・けど。」
じゃあなんなんだ。
「してないからむかつくんだろ。」
知らねえよ。
「いっつもぬくぬく守られて当然って顔してんのがむかつくんだよ!」
知らねえよ。
「あのさあ、
 俺のなにを知ってるんだか解んねーけど
 なんかあって嫌いになったんなら・・・」
「なんだよ!」
「もう俺に構うなよ。」
ぱたんと本を閉じて立ち上がる。
カフェに寄って夕飯受け取って部屋で食うかな。
なんとなくだけどカフェで食うとこいつも来そうな気がする。
書斎を出るときに「逃げんのか!」とか言ってたのが聞こえた気がするけど、
・・・気にしない。

カフェの厨房に懐かしい人がいた。
「刀祢さんこんにちは。」
「ああ、白雨くん。
 今年も来たんだね。」
「はい。今日からここに?」
「うん。
 今日から入れ替わりでね。
 私がカフェを担当するよ。よろしくね。」
「はい。久々に逢えて嬉しいです。」
「私もだよ。少し大人びたね。」
「そうですか?」
「うん。背も伸びたみたいだ。
 でも相変わらず痩せてる。ひょろひょろだぞ。
 しっかり食べてもらわないとな。」
「ははっ。今日は何ですか?」
「ビーフシチューとシーザサラダ。
 それにドリンクはダージリンティーなんかどうだい?」
「いいですね。美味しそうです。」
「おかわりたくさんあるからね。」
「はい。」
部屋で食べようと思っていたけれど
久々に逢えた刀祢さんの存在が嬉しくて
やっぱりここで食べようかな。おかわりもしたいしな。なんて思っていたら、
案の定カフェの入り口付近にいたあいつと目が合った。なんなんだよ全く。
目は合ったけど今度は寄っても来なくてそのまま立ち去ったみたいだった。

「構うなって言ったのが効いたかな?」
「なあに?」
刀祢さんが厨房から出てきて俺の前にトレイを置いた。
それからもう一度厨房に引き返してもう一つトレイを持って俺の横に座った。
「刀祢さんも食事?」
「うん。誰か来たらすぐ出せる状態だし
 まあそうそう来るほど人もいないし
 折角だから白雨くんとご一緒させてもらおうかと思ってね。いいかな?」
「もちろんです。
 刀祢さん、ここ今どれくらい人いるんですか?」
「サマースクール期間まるまる全部受講する人ってそういないし
 ここは特別宿舎だからね。入れ替わり立ち替わりしてるけれど
 私と君を入れてだいたい7、8人ってところかな。
 うん。今日は7人だったかな。」
「そうですか。」
「君がそんなこと聞くなんて珍しいね。」
「そうかもしれないですね。
 いつもはそういうの遥が把握してたりしたので。
 それに俺は別に・・・」
「他人なんか眼中になかった、かな?」
「まあ、そうかもしれないです。」
「遥くんしか見てない感じだったからなあ。
 本読んで遥くんを追って遥くんを慕って
 そんな感じだったね。」
「なんか俺、うざいですね。」
「いやいや、遥くんがこれまた嬉しそうでね。
 君らの仲の良さはほんと笑っちゃうくらい微笑ましかったよ。」
「そうですかね。」
「うん。羨ましいほどだったよ。」
「羨ましい?」
「サマースクールに自宅から通う子たちは別としてね、
 ここに泊るような子たちは恵まれてる部分は多いけれど
 欠けてる部分も少なからずあるんだよね。
 それが愛情だったり感情だったり大切なものが、ね。」
「ああ、少し解ります。」
俺には遥がいたから。
俺には遥が与えてくれた欠片だ。

刀弥さんはサマースクールが始まるとここで
厨房を担当したり宿舎の管理をしている人だ。
俺も遥も刀弥さんとはここで知り合った。
ずっと年上で気さくで気の利く優しい大人だ。
遥がいなくてもそんなに躊躇なくここへ来れたのは
この人がいると思い込んでいたからかもしれない。
初日は挨拶に行った先にこの人が居なかったことに落胆した。
今日からこの人が居ることが実はすごく、かなり、俺は嬉しい。

「ああ、デザートも食べるかい?
 フルーツゼリーを作ってみたんだ。」
「頂きます。
 それとシチュー美味しかったですごちそうさまでした。」
「そういってもらえると嬉しいよ。」
刀弥さんはふんわりと笑うと空になった皿とトレイを持って厨房へ入った。
「さて、私はそろそろ洗い物と片付けに入らないといけないから
 この辺で失礼するよ。ゼリーゆっくり味わってね。」
「はい。」
「あ、それと白雨くん。」
「はい?」
「あそこにいる彼、さっき食事した時にはまだ
 ゼリーが固まりきる前だったから出してあげれなかったんですよ。
 彼にもこれ、渡してあげてくれませんか?」
俺のと、その彼というのの2つ分のゼリーを受け取って
彼、の居る方向を見たら、うんまあ、彼が居た。

「デザートだって。」
彼の前に置いて離れたところで食べ始める。
さすが刀弥さん。デザートも美味いや。
「ゴチソウサマ。」
と手を合わせてカップを捨ててスプーンを返して食堂を出ようとしたとき
目に入った彼は、固まったようにスプーンを握り締めてゼリーを見てた。
ほんとよく解んないやつ。



たら、れば、なんて言うのは嫌いだ。

サッカーじゃよく言われることだけど
あの時のPKが決まってたら、とか
あの時バーに当たらなければ、なんて
試合終了のホイッスルが鳴った後で言ったって
試合の結果が変わるわけじゃないし勝ちは勝ちで負けは負けだ。

そりゃさ、
あんとき走りこんどけばチャンスになった。とか
あんときもっと早いプレスを掛けてれば失点はなかった。とかなら
次はどうしよう。
次はこういこう。
って、次の試合につながる反省と改善だからいいんだけど
必要だし大事なことなんだけど
後ろ向きなたら、れば、はだめだ。

今日の試合の俺は最悪だった。
あのとき集中を切らさなければって
交代させられたベンチの中で拳を握りしめた。
自分がどれだけやっちゃいけないプレイをしたのか解る。
解るから悔しいし情けないし
「明日から3日間、チームとは別に自主練習して頭を冷やしなさい。」
なんてことを監督に言われても仕方がないし納得するしかなかった。

ああ。くそ。俺のばか。
落ち込んで屋上でうずくまってたら月代が
そっとやってきてなんも言わずに俺の横に座った。

こいつに関する気持ちに気づいてからは
俺は毎日、毎日、考えてもどうしようもないって解ってて
そんでも考えずにいられなくて祈るように思ってる。

上杉より早く告白してたら。って。
もっと早くにこの気持ちに気付いてたら。って。
そしたらちゃんと好きだって言えたのに。って。
もしかしたら月代と付き合ってたのは俺だったのに。って。

解ってんよ。考えても仕方ないことだって解ってる。
でもな、こいつは今ここにいて、俺の隣にいて、
いっつも優しくて、最近は可愛くも見えて、ときどきすげー男前で、
そんなんいっつも見てたらそう思わずにはいられねーのも仕方ねーだろ。

きらきらしてんだもん。
いいにおいするし細いし白いし。
困ったときとかほんといつもいてくれんの。

「月代、」
「おう。」
上杉なんかやめろよ。
あいつは普通にもてるんだからいいじゃん。
(3日間だけど)サッカーすらない俺にしろよ。
俺のためにここにいて俺のことだけ見てくれよ。
「ばかみたいに晴れてんな。」
「あー、うん。天気予報じゃ雨だったのにハズレたな。」
「これのどこが雨だっつうんだよ。」
「ははっ。」
俺みたいだ。
胸んなかはもやもやして曇っててたまに雨降って、
そういうの見せれねーからふてくされた顔でなんでもないように笑うんだ。

「おっ生田と田中発見!
 あっちには古泉と細山田発見!」
「なんだよいきなり!」
「3オン3できんじゃん!いくぞ水品!」
サッカーできなくてへこんでる俺をバスケに誘うのかよ。
って月代を見たら俺の顔見てにやりと笑って俺の手を取って走りだした。
風に揺れる月代の髪や手の温度や遊び仲間を誘う心地いい声やなんかに
ああ、俺ほんと月代好きなんだ。って思ったら鼻先がつんと痛いのになんか幸せ感じた。

天気予報はずれてよかったよ。

晴天の下、笑いあう仲間がいる。
バスケして汗かいてへこんだ気持ちが紛れた気がした。
サッカー馬鹿がサッカーできなくて運動もしなかったらそりゃ落ち込んだままだよな。

最悪だ。
とすら思わなかった。
むしろ気が楽なくらい。
こんなとこに自分の居場所は求めない。


『虚像』

「俺、あんたのこと大嫌い。」
と、知らないやつに言われた。

毎年、ではないけれど
長い休みのたびに遥と俺は欧州に帰省して
親類の学校経営者の手伝いをしにスクールへ通った。
遥はほぼ完全に助手だったりたまに教鞭を振るったりしてたけど
俺は付き添いみたいなもんだったから授業を受ける生徒でもあった。
なんでそんなことしてんのかって言うとそれが俺と遥が日本で暮らせる条件だったから。
ほかにもいろいろな条件クリアしながらの日々だったけど遥といれるならなんでもよかった。

そこで、だ。
初めての遥を伴わないサマースクール。
日本じゃないことに、遥と一緒じゃないことに、別にひるんだりしない。
しばらく上杉にも水品にも古泉にもあえないことにはちょっとへこんでたけど。
そこで、言われた。

誰だよこいつ。
と思ったけどいきなりわざわざ
嫌いだなんて言いに来るやつの名前なんか知りたくねーし
だいたいここあんま人来ないからいつも遥とくつろぐときに使ってた離れの窓際ソファーにさ
なんで好き好んで来てまでそれ言いに来ちゃってるのかほんと意味不明で反応に困るんだけど。

「あー、んじゃ俺も。」
って言っとけばいいかな。
お互いが嫌いなら構わないだろう。

「なっ!俺のこと知ってんのかよ!」
知らねえよ。なんなんだよ。
もう面倒くさいので読んでた本閉じて立ち上がった。
「なっ!なんだよ!やんのか?」
なにをだよ。
せっかくのくつろぎタイムを邪魔されたくないんだけど。
図書館にでも場所を移そうと思ってすれ違ったら身構えられた。
なんもしないよ。
「どこ行くんだよ!」
いちいち構うな、俺に。
「ばいばい。」
答えずに去る。
背が高い。越乃くらいあるかな。
けど越乃よりもがっちりしてる。
越乃は背高いけど細いもんな。
なんてどうでもいいことを考えながら歩いた。

サマースクールの間、普段は大学の学びやで
キンダーガーデン組からハイスクール組までが別々の校舎を使う。
年齢層はそこそこ幅広いけどそもそも人数が少ないうえに広大な敷地。

「逢わないようにしようと思えばいくらでもできんのに
 なんでわざわざ・・・」

午後の手伝いは教務室のプリントを教室に運んで並べるのと
それをできた順に持ってくるのを採点するだけ。
エレメンタリースクールはほとんどこの授業方針だから楽だ。
採点が無い間は本も読めるし静かだ。
そもそも生徒が少ないから忙しくもない。

つつがなくこなして片づけを終えて
寮ではない用意された宿舎に戻ろうとしたら
「ハクウじゃん。」
と声を掛けられた。
振り向くと知った顔。
「久しぶりです。」
「久しぶりだな。なに?今年も手伝い?」
「はい。」
「なんだよおまえ昔っからよそよそしいな。
 俺と同期の遥にはタメ口なくせに。」
「遥は家族みたいなものですから。」
「まーそうなんだろーけどさー。
 今年はハクウひとりなんだってな。」
「はい。」
多くの知り合いは遥がもういないことを知らない。
遥の交流関係は広かったけれど
遥はいろんな人に慕われてはいたけれど
年に1、2度会う位の浅い関係も多かったから
わざわざ知らせたりしないのが暗黙の了解になっている。
 「大丈夫か?困ったことあったら相談しろよ。
 俺は寮の2号館にいるからいつでも来いよ。」
「大丈夫です。ありがとうございます。
 それじゃ。」
「おうよ。」
手を振って宿舎に向かう。
宿舎は3階建てのレンガ造りの建物で
内装や家具はロココ様式で統一されている。
部屋はひとうひとつがどこも広くて窓が大きい。
共有スペースはバルコニーとカフェテリアと
エントランスと噴水ののある庭園と俺のお気に入りの
ひときわ広い部屋の高い天井に至るまでぎっしりと本の詰まった書斎。

生徒のほとんどは自宅通いだ。
別にギムナジウムじみた感じはない。
寮生は本来ここで学んでいる学生がそのまま残って
サマースクールでバイトしていたり研究していたりの生徒だ。
俺は生徒でもないし通ってまで帰りたい場所もないし一応学校関係者なので
こうした場所を与えられて言語や音楽を学びながら手伝いをして夏を過ごす。
越乃もここへ来たことがあると言っていた。彼もたぶんここで寝泊まりしたんだろう。

今までは遥がいたから別に他人なんか気にしていなかったけれど
今年はこの宿舎を使うのは俺以外にどのくらいいるんだろうと漠然と思う。

部屋で着替えを終えて書斎に向かおうとドアを開けたら
吹き抜けのエントランスの空間部分を挟んだ向かいのドアにいた人物が
「ハクウ!」
と声をあげた。
知り合いかと思って目を凝らしてからうんざりした。

まさに昼間わざわざ嫌いだと告げに来たあいつだった。





1年ぶりに見た彼は少し大人びて見えた。
たった1年。深く重い1年であっただろうと思うのに
驚くほど自然に彼は笑った。
心の中にあった水溜りが塞き壊したように溢れた。
胸の内にあった累積した痛みがじんじんと疼いた。
「は、くう・・・」
言葉にならずに彼の名を紡いだ私を見て
「サラ久しぶり」
手を差し出す彼はやっぱり彼でしかなくて
「ごめんなさい。」
とずっと言わなければと思っていたひとことを告げた私を
「サラがあやまることなんかひとつもない。」
そう言って抱きしめた。
暖かい。生きている人間の体温だ。

私は1年前のあの日。
あの子を失ったあの日、
同時にこの子も失う覚悟をした。
あの子とこの子のつながりは並ならないものであったから。

「あなたが後を追うんじゃないかと
 あなたを残したことを後悔しない日はなかった。」
「そうなんだろうね。心配掛けてごめん。
 好き勝手やらしてもらってありがとう。」
聡いこの子は知っているのだ。
彼の必死さに胸を打たれた私が、私だけが、
彼があの子のいないひとりきりの世界に留まることを、
それでもこの子が望むならと説得してそうなったことを。
「あのとき、残らなかったら俺は俺を失ってた。
 残ったから遥や遥の残したものや失った痛みと向き合えた。
 いまこうして穏やかにいられるのもそのおかげ。ありがとうサラ。」
男の子なんだなぁ。
初めて出会ったときは小さくて女の子みたいで
やんちゃなでっかい弟しかいなかった私は妹みたいに接した白雨。
いつの間にかこんなに男の子の表情を身につけちゃって少し寂しい。

「そう思えるなら、向き合えて進めるなら、
 もう日本にいないでこっちに戻って来ない?」
だって日本にあの子はもういないのだもの。
この子の居場所だったあの子は死んでしまったんだもの。
あの子のそばがこの子の居場所だったというならもうそれはどこにもない。
それなのに彼は、この子は、白雨は、ふるふると首を振ってやんわりと笑った。

「遥が生きた場所にこれからもいたいんだ。」
「そう。
 あなたはあの子が大好きだったものね。」
「うん。」
「あの子はあなたをとても愛してたものね。」
「ふふっ。過保護だったよ。」
「あの子は死んでしまったけれど、
 あなたと最後まで一緒にいれて。
 最後まで幸せだったんだろうなあ。
 希望じゃなくて、そう確信してるわ。」
「そうだといいなあ。」
ふわっと彼は笑う。
「してもらうばかりで俺は何も返せなかったから。」
ふんわりとこの子は笑う。
「そんなことはないわ。」
「そうだといいなあ。」
大人びたこの子もあの子のことでは
子供のような幼さの残る無垢な表情になる。

「サラ、」
「なあに?」
「遥のお墓、どこにあるか教えて。」
ああ、そうね。
あの日以来こちらに来なかったこの子は
遥の墓すら来ないままで知らないままだったのね。
「ええ。
 この住所よ。」
メモした紙を受け取ると
「ありがとう。」
と風のように笑った。
彼は、この子は、白雨はこれから
あの子の、遥の墓前でこれから
何を報告し、話すのだろう。

ほんとうにほんとうに、
互いが互いを必要としているような
ほんとうにほんとうに、
切り離したら生きていけない水と魚のような
そんな二人だったから、
一緒にいない二人を想うだけで泣いてしまいそうになる。

あんなにあの子を必要としてくれたこの子が
もうあんな辛い思いをしませんように。
もうあんな悲しい目にあいませんように。
少しでも穏やかな気持ちで笑っていられますように。
どうか、どうか。
 


 

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BrownBetty 
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