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構うなよ。
脳裏にも浮かべんなよ。
心の片隅にも映すなよ。

とりあえずおまえは俺から離れてくれ。


『虚像4』


「月代先輩!」
驚いた。いや、いても不思議はないんだけど。
「なんです?そんなに驚きました?」
「あ、うん。まあ。なんで?」
「先輩がここにいるって俺のスネークが教えてくれたんで。」
「スネークって・・・」
「うふふ。結構あちこちにいるんですよ。俺の情報屋。」
「ああそう。怖いな。」
「情報は武器ですよ。先輩。」
「かもな。なに?通うのここ?」
「俺も忙しいんでギリギリ3日ほど。
 先輩一緒に寝ましょうね。」
「寝ないよ。」
越乃がなんか此花っぽい。
そういえば最近仲良かったし。
越乃ってほんと同級とは合わないな。

「なんです?俺の顔に穴でも空けたいんですか?」
「いや。いつ来たの?」
「さっき手続き済まして来ました。」
「どこのクラス?」
「俺は頭いいし語学も堪能なので芸術クラスでバイオリン習います。
 このとおり顔もいいですしね。」
「・・・ああそう。」
「そっけないですよ!つっこんでくださいよ!
 夜もひとつ枕の下弦の月のもとで!」
「・・・ごめんおまえには突っ込めない。」
「なんでですか!」
「俺の力量が足りない。」
「じゃあ挨拶のキスでもひとつ!」
「しねえよ!」
「突っ込んだ!突っ込まれましたよ俺!」
「・・・疲れたよパトラッシュ。
 くだらないこと言ってないで宿舎行くか。
 今日のやること終わったし解らないことあれば教えるけど。」
「はい。ありがとうございます。」

宿舎のエントランスで視線を感じて見上げたらあいつがいた。
すげえ睨んでる感じでしばらく見てから部屋に入っていった。
「誰?」
「ここにいるやつ。よく知らねえ。」
「ふうん。
 先輩、ここで騒いで良い部屋ないですかね?」
「騒いで?どうだろ刀弥さんに聞いてみるけど。」
「刀弥・・・ああここの宿舎の管理人兼料理人ですか。
 あの人今年もいるんですか?」
「うん。知ってる?」
「それくらいしか知らないですよ。」

刀弥さんに聞いたところ
元々エレピアン室として使っていた部屋が防音らしい。
「で、なに騒ぐ気?」
「もちろん、俺の歓迎会!」
「ああそう・・・」
「俺企画のサプライズパーティ!」
「言っちゃったらサプライズじゃないし。」
「女の子達も呼んじゃったvブロンド栗色どちらが好きですか?」
「黒髪。」
「俺・・・染めようかな。」
「女の子の話じゃなかったのかよ。」

越乃はほんといろいろ手が回るなあと思った。
本人が言うだけあってそれほどのサプライズパーティだった。
ただの誕生日パーティとかそんな感じじゃなくてちゃんと司会もいて
立食だけれどりっぱで贅沢なバイキングなんかも用意されていた。
しかし、いったい何人呼んだんだ?
あまり顔を合わすことの無かった他の宿舎生も呼ばれているらしく
見渡せば刀弥さんの顔もあってワインが入ったグラスを掲げてみせた。

女の子に囲まれてる越乃を横目に
少し静けさが欲しくてベランダに出た。

越乃は身長も後姿も昔間違えたことがあったけど遥を思わせる。
いま賑やかに和の中心になっているのもそんな感じだ。
久々にこんな場所であったかいものもらった気がした。

「今度はあいつ?」
「俺の知り合いを誰も彼もそんな目で見てんなよ。」
「あんたが否定、しないからじゃん!」
「おまえ面倒くさい。」
とうとう言ってしまった。
もうほんと面倒くさいんだ。
「なんでだよ!どこがだよ!」
「嫌いって言うくせに追っかけてくるとこと
 勝手な妄想膨らませて押し付けてくるとこと
 見なきゃいいのににらんでくるとこ、の3点。」
「・・・あんたが俺のこと嫌いって言うから。」
「なんだそれ?先に言ったのそっちじゃん。」
部屋に戻ろうとしたら丁度越乃が来た。

「あれ?やっぱ知り合い?」
「越乃、」
「はい?」
「右から3番目の子、紹介してよ。」
「ええっ!」

俺はおまえには興味ないんだ。
こんなとこに知り合いなんか作る気はない。



 











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夢なんか見ない。

今在る俺が俺で。
あの時の俺も俺だけど。
取り戻したくてもできないもんだって解ってる。

知ってくれなんて思わない。

ここは俺の居場所じゃない。
ここに俺は心なんか残さない。

ああ、早く日本に帰りたい。
あいつんとこに駆けつけて「ただいま」って早く言いたい。


『虚像3』


「おまえなんか大嫌いだ。」
なにこれデジャブ?
「知ってるよ。」
昨日と同じとこで同じ時間に昼飯食って本読んでたらまた来たこいつ。

「俺のことあの人に聞いてたのか?」
「は?」
「昨日食堂で!」
「ああ刀弥さん?聞かねーよ。なんでだよ。」
「聞いてないのか?」
「なんで聞くんだよ。いらねーし。」
「・・・っ!
 じゃあ何、話してたんだよ。」
おまえに言う義理ないんですけど。
なに言ってもつっかかってくるから面倒くさい。
とりあえず答えずにその場を立ち去ろうと立ち上がると
ぐい、と腕をつかまれて壁に押し付けられた。痛いんだけど。

「昔話だよ。これでいい?」
「どんな?」
「おまえいい加減にしろよ。」
「話せよ!」
「俺の大事な人の話。これでいい?」
「誰だよ!」
「ここにいない人だよ。
 おまえ知らないだろ。」
「知ってる!遥ってやつだろ!」
ああ、そっか。俺のこと知ってんなら
俺が金魚のフンみたくくっついて回ってた遥のことも知ってるか。
「だったらなに?」
「おまえべったべたくっついてたもんな!
 いっつも一緒にいてさ!見てて気持ち悪かったぜ!」
「・・・」
「他の奴なんか目もくれねーでよ。
 アレなの?おまえらできてたの?」
「・・・」
「なんも言えねーんだ?マジなのか?
 うわっ気持ちわりっ!汚ねえっ!」
「その汚えもんから手ぇ離せよ。」
「・・・っ。」
俺はよくひょろいって言われる。
それが逆に相手の油断になることも解ってる。
油断するだろう方向に力を加えれば相手は倒せる。
俺を押し付ける腕を身を避けながら俺のほうに引く。
これは俺の力じゃない。相手の力を利用しただけ。
それでも目の前のがたいのいいこいつは勝手にすっ転げた。
「なにす・・・」
「二度と俺に構うな。」
遥との関係を否定するのも面倒くさい。
よくもまあ他人のことでそんな想像できるもんだ。
気持ち悪いなら考えなきゃいいのにほんと解かんねえ。

「今度は刀弥とかいうおっさんとそーなるわけ?」

どんな思考回路してんだこいつ。

感情がないわけじゃない。
感情を動かしたくないだけ。
一度感情が揺れてしまうと、
そこになんらかの気持ちが生まれるから。

いばしょとして求めないところに
よけいな思い入れなんか持ちたくないんだ。

たのむよ。放っておいてくれ。

『虚像2』

ああ、こいつもここにいるってことは
学校関連者の類なのか。

「ハクウ!ハクウ!」
うるさいなあ。
嫌いなら人の名前連呼するなよ。
「なんなの?」
面倒くさそうに返事をしたら
「俺を無視するな!」
とか言うんですけど。なんなんだ。
「なに?なんか用?」
「用なんかあるか!」
うわ。水品より意味不明だ。
水品のはなんか可愛げがあって構いたい感じだったけど
こいつのはなんかもうただひたすら面倒くさい感じだ。
「そんじゃ行くから。」
「待てよ!」
なんなんだよ。ほんと。
振り向いてじっと見たら、
「なんだ!?」だって。それこっちのセリフ。

「なんもねーよ。」
「・・・っ!」
もう構うのをやめて書斎に向かうことにする。
書斎とは名ばかりで図書室みたいなんだけど
学校とは違うから置いてあるソファーや長椅子が座り心地がよくて好きなんだ。
遥なんか読みながら長椅子でそのまま朝まで寝ちゃうことがよくあったのを思い出す。

本が焼けないために地下に造られたこの部屋は静かでほの暗くて
別世界に迷い込んだ雰囲気がある。
そこで空想の世界だったり、仮想の未来なんかが書かれた本を読む。
集中して読み始めると2時間3時間なんか軽く過ぎていたりする。

読み始めてどのくらいしただろう。
ふと人の気配を感じて本から視線をあげた。

またおまえか。

「いっつも本読んでるな。」
「それが?」
「・・・っ!
 おまえ性格悪いだろ!」
「知らねえよ。」
「なんか・・・雰囲気変わったな。
 前はもっとヤワな感じだったのに。」
一度本に落とした視線をもう一度あげてドア付近に立っている男を見る。
知り合い、か?
学校関係者ってことは親戚とまでは行かないまでも
父の仕事関連に携わる人の関係者なのは確かなんだろう。
だとしたらどっかで逢っていてもおかしくないし可能性も高い。
が、覚えがない。
「逢ったことあんの?俺と?」
「覚えてないのか!」
「・・・ない。」
嫌いだっつーから好都合だと構わないつもりでいたのに
追いかけてくるわ、人の名前連呼するわ、仕方ないから観念してみる。

「俺、君になにかした?」
「・・・してない・・・けど。」
じゃあなんなんだ。
「してないからむかつくんだろ。」
知らねえよ。
「いっつもぬくぬく守られて当然って顔してんのがむかつくんだよ!」
知らねえよ。
「あのさあ、
 俺のなにを知ってるんだか解んねーけど
 なんかあって嫌いになったんなら・・・」
「なんだよ!」
「もう俺に構うなよ。」
ぱたんと本を閉じて立ち上がる。
カフェに寄って夕飯受け取って部屋で食うかな。
なんとなくだけどカフェで食うとこいつも来そうな気がする。
書斎を出るときに「逃げんのか!」とか言ってたのが聞こえた気がするけど、
・・・気にしない。

カフェの厨房に懐かしい人がいた。
「刀祢さんこんにちは。」
「ああ、白雨くん。
 今年も来たんだね。」
「はい。今日からここに?」
「うん。
 今日から入れ替わりでね。
 私がカフェを担当するよ。よろしくね。」
「はい。久々に逢えて嬉しいです。」
「私もだよ。少し大人びたね。」
「そうですか?」
「うん。背も伸びたみたいだ。
 でも相変わらず痩せてる。ひょろひょろだぞ。
 しっかり食べてもらわないとな。」
「ははっ。今日は何ですか?」
「ビーフシチューとシーザサラダ。
 それにドリンクはダージリンティーなんかどうだい?」
「いいですね。美味しそうです。」
「おかわりたくさんあるからね。」
「はい。」
部屋で食べようと思っていたけれど
久々に逢えた刀祢さんの存在が嬉しくて
やっぱりここで食べようかな。おかわりもしたいしな。なんて思っていたら、
案の定カフェの入り口付近にいたあいつと目が合った。なんなんだよ全く。
目は合ったけど今度は寄っても来なくてそのまま立ち去ったみたいだった。

「構うなって言ったのが効いたかな?」
「なあに?」
刀祢さんが厨房から出てきて俺の前にトレイを置いた。
それからもう一度厨房に引き返してもう一つトレイを持って俺の横に座った。
「刀祢さんも食事?」
「うん。誰か来たらすぐ出せる状態だし
 まあそうそう来るほど人もいないし
 折角だから白雨くんとご一緒させてもらおうかと思ってね。いいかな?」
「もちろんです。
 刀祢さん、ここ今どれくらい人いるんですか?」
「サマースクール期間まるまる全部受講する人ってそういないし
 ここは特別宿舎だからね。入れ替わり立ち替わりしてるけれど
 私と君を入れてだいたい7、8人ってところかな。
 うん。今日は7人だったかな。」
「そうですか。」
「君がそんなこと聞くなんて珍しいね。」
「そうかもしれないですね。
 いつもはそういうの遥が把握してたりしたので。
 それに俺は別に・・・」
「他人なんか眼中になかった、かな?」
「まあ、そうかもしれないです。」
「遥くんしか見てない感じだったからなあ。
 本読んで遥くんを追って遥くんを慕って
 そんな感じだったね。」
「なんか俺、うざいですね。」
「いやいや、遥くんがこれまた嬉しそうでね。
 君らの仲の良さはほんと笑っちゃうくらい微笑ましかったよ。」
「そうですかね。」
「うん。羨ましいほどだったよ。」
「羨ましい?」
「サマースクールに自宅から通う子たちは別としてね、
 ここに泊るような子たちは恵まれてる部分は多いけれど
 欠けてる部分も少なからずあるんだよね。
 それが愛情だったり感情だったり大切なものが、ね。」
「ああ、少し解ります。」
俺には遥がいたから。
俺には遥が与えてくれた欠片だ。

刀弥さんはサマースクールが始まるとここで
厨房を担当したり宿舎の管理をしている人だ。
俺も遥も刀弥さんとはここで知り合った。
ずっと年上で気さくで気の利く優しい大人だ。
遥がいなくてもそんなに躊躇なくここへ来れたのは
この人がいると思い込んでいたからかもしれない。
初日は挨拶に行った先にこの人が居なかったことに落胆した。
今日からこの人が居ることが実はすごく、かなり、俺は嬉しい。

「ああ、デザートも食べるかい?
 フルーツゼリーを作ってみたんだ。」
「頂きます。
 それとシチュー美味しかったですごちそうさまでした。」
「そういってもらえると嬉しいよ。」
刀弥さんはふんわりと笑うと空になった皿とトレイを持って厨房へ入った。
「さて、私はそろそろ洗い物と片付けに入らないといけないから
 この辺で失礼するよ。ゼリーゆっくり味わってね。」
「はい。」
「あ、それと白雨くん。」
「はい?」
「あそこにいる彼、さっき食事した時にはまだ
 ゼリーが固まりきる前だったから出してあげれなかったんですよ。
 彼にもこれ、渡してあげてくれませんか?」
俺のと、その彼というのの2つ分のゼリーを受け取って
彼、の居る方向を見たら、うんまあ、彼が居た。

「デザートだって。」
彼の前に置いて離れたところで食べ始める。
さすが刀弥さん。デザートも美味いや。
「ゴチソウサマ。」
と手を合わせてカップを捨ててスプーンを返して食堂を出ようとしたとき
目に入った彼は、固まったようにスプーンを握り締めてゼリーを見てた。
ほんとよく解んないやつ。



最悪だ。
とすら思わなかった。
むしろ気が楽なくらい。
こんなとこに自分の居場所は求めない。


『虚像』

「俺、あんたのこと大嫌い。」
と、知らないやつに言われた。

毎年、ではないけれど
長い休みのたびに遥と俺は欧州に帰省して
親類の学校経営者の手伝いをしにスクールへ通った。
遥はほぼ完全に助手だったりたまに教鞭を振るったりしてたけど
俺は付き添いみたいなもんだったから授業を受ける生徒でもあった。
なんでそんなことしてんのかって言うとそれが俺と遥が日本で暮らせる条件だったから。
ほかにもいろいろな条件クリアしながらの日々だったけど遥といれるならなんでもよかった。

そこで、だ。
初めての遥を伴わないサマースクール。
日本じゃないことに、遥と一緒じゃないことに、別にひるんだりしない。
しばらく上杉にも水品にも古泉にもあえないことにはちょっとへこんでたけど。
そこで、言われた。

誰だよこいつ。
と思ったけどいきなりわざわざ
嫌いだなんて言いに来るやつの名前なんか知りたくねーし
だいたいここあんま人来ないからいつも遥とくつろぐときに使ってた離れの窓際ソファーにさ
なんで好き好んで来てまでそれ言いに来ちゃってるのかほんと意味不明で反応に困るんだけど。

「あー、んじゃ俺も。」
って言っとけばいいかな。
お互いが嫌いなら構わないだろう。

「なっ!俺のこと知ってんのかよ!」
知らねえよ。なんなんだよ。
もう面倒くさいので読んでた本閉じて立ち上がった。
「なっ!なんだよ!やんのか?」
なにをだよ。
せっかくのくつろぎタイムを邪魔されたくないんだけど。
図書館にでも場所を移そうと思ってすれ違ったら身構えられた。
なんもしないよ。
「どこ行くんだよ!」
いちいち構うな、俺に。
「ばいばい。」
答えずに去る。
背が高い。越乃くらいあるかな。
けど越乃よりもがっちりしてる。
越乃は背高いけど細いもんな。
なんてどうでもいいことを考えながら歩いた。

サマースクールの間、普段は大学の学びやで
キンダーガーデン組からハイスクール組までが別々の校舎を使う。
年齢層はそこそこ幅広いけどそもそも人数が少ないうえに広大な敷地。

「逢わないようにしようと思えばいくらでもできんのに
 なんでわざわざ・・・」

午後の手伝いは教務室のプリントを教室に運んで並べるのと
それをできた順に持ってくるのを採点するだけ。
エレメンタリースクールはほとんどこの授業方針だから楽だ。
採点が無い間は本も読めるし静かだ。
そもそも生徒が少ないから忙しくもない。

つつがなくこなして片づけを終えて
寮ではない用意された宿舎に戻ろうとしたら
「ハクウじゃん。」
と声を掛けられた。
振り向くと知った顔。
「久しぶりです。」
「久しぶりだな。なに?今年も手伝い?」
「はい。」
「なんだよおまえ昔っからよそよそしいな。
 俺と同期の遥にはタメ口なくせに。」
「遥は家族みたいなものですから。」
「まーそうなんだろーけどさー。
 今年はハクウひとりなんだってな。」
「はい。」
多くの知り合いは遥がもういないことを知らない。
遥の交流関係は広かったけれど
遥はいろんな人に慕われてはいたけれど
年に1、2度会う位の浅い関係も多かったから
わざわざ知らせたりしないのが暗黙の了解になっている。
 「大丈夫か?困ったことあったら相談しろよ。
 俺は寮の2号館にいるからいつでも来いよ。」
「大丈夫です。ありがとうございます。
 それじゃ。」
「おうよ。」
手を振って宿舎に向かう。
宿舎は3階建てのレンガ造りの建物で
内装や家具はロココ様式で統一されている。
部屋はひとうひとつがどこも広くて窓が大きい。
共有スペースはバルコニーとカフェテリアと
エントランスと噴水ののある庭園と俺のお気に入りの
ひときわ広い部屋の高い天井に至るまでぎっしりと本の詰まった書斎。

生徒のほとんどは自宅通いだ。
別にギムナジウムじみた感じはない。
寮生は本来ここで学んでいる学生がそのまま残って
サマースクールでバイトしていたり研究していたりの生徒だ。
俺は生徒でもないし通ってまで帰りたい場所もないし一応学校関係者なので
こうした場所を与えられて言語や音楽を学びながら手伝いをして夏を過ごす。
越乃もここへ来たことがあると言っていた。彼もたぶんここで寝泊まりしたんだろう。

今までは遥がいたから別に他人なんか気にしていなかったけれど
今年はこの宿舎を使うのは俺以外にどのくらいいるんだろうと漠然と思う。

部屋で着替えを終えて書斎に向かおうとドアを開けたら
吹き抜けのエントランスの空間部分を挟んだ向かいのドアにいた人物が
「ハクウ!」
と声をあげた。
知り合いかと思って目を凝らしてからうんざりした。

まさに昼間わざわざ嫌いだと告げに来たあいつだった。





ああ、まただ。

正直社会勉強させてもらってるし
金に不自由しない生活を当たり前だと思いたくないし
好きにやらせてもらってることの感謝を返したいとも思ってる。

けど、学校には普通に通いたいんだ。
休むことなく。ズレることなく。トクベツ扱いもなく。

「留学ですか?」
「と言っても我が校、遠野学園の在籍はしたままななので心配はいらないよ。
 夏休みと夏休み明けの数日をあちらのスクールで過ごしてもらうだけだ。」
夏休み明けを削られるんじゃないか。
夏休みだって削られるんじゃないか。

「俺に夏休みはないってことですか?」
「5日間はあげるよ。あちらのスクールだってみっちり授業があるわけでもない。
 生徒であり教授補佐も勤めてもらうので慣れるまで少々大変かもしれないが。」
結局は親父の手伝いを遠まわしにやりながら学べってことだろう。
いつものことだけど遥もいない今、上杉にも逢えないのは少し辛い。

「解りました。」
「よろしく頼むよ。」
「はい。あ、学長。」
「なんだね。」
「このことは、」
「内密事だよ。私用なのでね。他言は無用だ。」
「安心しました。失礼します。」

はあ。と溜息をつく。
理事室の向かいの窓からはグラウンドが見えた。
サッカー部がパス回しをしている。水品も見えた。
「青春だなあ。」
思わず笑ってしまう。
少し気持ちが和むのを感じる。
ああ俺、ギスギスしてたんだなと思う。

夏休みが潰れることが嫌なんじゃないし
あっちのサマースクールに通うのが嫌なんじゃない。
仕事を手伝うのもその働きが役立つのなら構わない。
それと引き換えにこの生き方や生活があるのなら望むところだ。

ただ、学校に通う日数が減るのは悲しい。
やっとできた居場所の限られた時間なんだ。
部活なんかできなくっていいからそれだけはさ。
つってもどうすることもできない俺は従うだけなんだけど。

遙に随分守られていたんだな、と
こんなときじわりじわり感じる。
じわりじわり胸が痛くなる。

いいこなんかじゃなかったよ、俺。
いいこでいればいい環境にあったからだよ。
いいこでいられる環境を遙が守ってくれてたからだよ。

なんか凹んできた。
考えても仕方ないことで凹んでどうするよ俺。

「月代?」
いつの間にか屋上に出てた。
影の中で手すりに縋って海を見てた。
海の向こうに渡ったら遥に逢えるんじゃねーの?
ってありえもしないことを考えて手を伸ばしてみたりして。
そしたらこの人が来てくれたんだ。天使じゃねーの?上杉。

「上杉って羽でも生えてんじゃない?」
「はね?」
「いいタイミングで来てくれたから。
 羽でも生えてて飛んできてくれたんかなーって。」
「どうかしたのか?」
「んー今日も暑いなーと思って。」
「ああ。暑いな。
 それだけじゃない、だろう?」
「夏休みまであと20日だね。」
「ああ。今日から7月だからな。」
「・・・上杉、」
「なんだ?」
「ダイスキ。」
「・・・俺もだ・・・けど誤魔化しで言われるのは・・・」
「ゴメン。好きなのは本当。
 好きだから、上杉に逢える日が減るのが悲しかっただけ。」
「逢える日が減る?」
「うん。家の事情で夏休み延長しなきゃなんだよね。」
「夏休みの延長?」
「うん。夏休みの頭からずっと帰省。
 夏祭りとか花火とか海水浴とか
 できねぇじゃんって凹んでたんだ。」
詳しい話はできないけど隠せない事実は言える。
本当は全部上杉に知って欲しいとかも思うんだけど
知ったからってどうということもないし逆に意識されても困るし
だいたい俺は俺で俺として上杉に好きでいて欲しいから良い。

「そう、なのか。
 実家が海外なんだったな。」
「うん。
 全然実感ないけど。
 ただいまって帰れる場所でもないし。」
「・・・」
「あ、ゴメン。気にしないで。」
「俺が待ってるから。」
「ん?」
「俺が日本で、ここで、待っているから、
 延長した夏休みから帰ってくるときは
 ただいま、と俺に言ってくれたらいい。」

なんて嬉しいこと言ってくれるんだ、このお人は。

「俺、上杉に好きになってもらえてよかったなあ。
 上杉のこと好きで幸せだなあ。」
そう言ったら
「俺のほうが幸せだと自負している。」
って小さく笑って「本当に好きなんだ。」だって。

天使だ。

夏休みなんか来なきゃいいのに。
このまま時間が止まればいいのに。

++++++++++





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BrownBetty 
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