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「佐原は特定の誰かと付き合ったことはあるか?」
放課後クラスの案件のまとめで2人きりになった教室で
ここぞとばかりに聞いてみた。
「へえ、上杉がそういう話振ってくるとは思わなかったぞ。
 特定の誰かってつまり恋愛で交際したことがあるかってことか?」
「ああ。ぶしつけな質問ですまない。
 答えたくなければ答えなくていい。」
「別に構わんよ。
 恋愛だかどうだか中学卒業までは交際していたぞ。」
「そうか。
 恋愛かどうか解らないのか?」
「そうだな。
 向こうから好きだと言われた。
 俺は彼女が好きと言うより交際することに興味があって付き合った。
 だからなのか口付けても世間が言うほどときめいたりせんかったな。
 むしろ今思い出すのは素朴だけどどこか魅かれた女教師のほうだな。」
「教師・・・慕っていたのか?」
「今思えば・・・教師として慕うというより女性として恋していたのかもしれぬな。」
「恋して?」
「恋と気付かぬままどうにもならずに離れてしまったから
 より鮮明に記憶として残るのだろう。」
「逢いたいと思うか?」
「いまさら思わぬな。
 美しいまま記憶に残しておきたい。」
「そんなものなのだろうか。」
「いまさら逢ってもどうにもならぬだろうという前提があるからな。
 この夏結婚したらしい。」
「そうか。」
「心から祝福できるほどに距離があってよかったと思う。」
「そうだな。」
「で?そんな話を持ちかけたと言うことは
 上杉自身今まさに誰かに恋でにもおちたのか?」
「俺?」
「ああ。
 言い寄られて断るのは慣れておるのだろう?
 だとしたら本人自身のことだと推測したが違ったか?」
「違・・・わない。
 不思議なんだ。
 気になってしかたないし、
 優しくされると勘違いしたくなる。
 これは恋なのか?」
「独占したいと感じるなら恋なのかもしれぬな。」
「独占・・・相手の負担になるようなことはしたくないけれど
 そうだな・・・・相手の特別になりたいと思う。いちばんじゃなくても。」
「いちばんじゃなくていいのか?」
「そう思うのがおこがましく感じる相手なんだ。」
「それはそれは。
 上杉にそういうことを言わせる人物に興味がある、が
 詮索はしないでおこう。しかし上杉がな。少し驚いたぞ。」
「ああ。俺も驚いている。」
「それで?上杉はどうしたいんだ?
 付き合いたいのか?告白するのか?」
「まさか、それすら・・」
「おこがましい、か。」
「ああ。」
「相手は上杉の気持ちを知らぬのだな?」
「ああ。
 知られたら俺は冷静でいられる自信がない。」
「よくもそこまで想うたものだ。
 上杉の気の回しすぎで実は両想いというのもあるのじゃないか?」
「まさか。」
そんなことは地球がひっくりかえってもないだろうと少し笑う。
「俺は上杉に好かれて断る女などよほどの変わり者か天邪鬼だと思うがな。」
女なら、か。
その差はどこから来るのか。
性別の壁はとても高いのだ。
「上杉・・・」
「あ、すまない。」
「否。構わぬ。
 これで終わったぞ。
 まあこのまま恋愛話を続けても構わんが。」
「これ以上はきっと同じことだからここまででいい。
 なんとなく聞いてみたかったんだが聞ける相手もなくて。
 こんなつまらない戯言に付き合ってくれてありがとう佐原。」
「否。上杉、」
「なんだ?」
「本気で好きで悩んでいるならそれは、戯言とは言わぬよ。」
「そうだな。」
「いつでもまた相談にのるぞ。」
「ありがとう。」
同じクラスの月代だと知ってものってくれるだろうか?
同性のオトコを好きだと知っても軽蔑しないでくれるだろうか?
俺の恋愛は、好きになった相手は、好きになってはいけない相手だったのだろうか?

******


佐原の口調・・・(笑)

 



入学してから、時は飛ぶように過ぎた。
全くと言っていいほど何もかも初めての世界に
戸惑いながら慣れながら必死で毎日を生きた。
広夢様は最初の10日間だけ寮の同部屋にいてくれて
その10日間だけ同じ科目を隣の席で受講しながら登下校も一緒してくれた。
でも、その10日間が過ぎると突如今までの生活なんかなかったように突き放した。

俺はひとりになった。

と思ったけれど広夢様はやはり目を惹く人だったから
10日間つきっきりでいた俺への注目はピークを達していたらしく
自然にぱらぱらと人が寄って来ては同じ質問を繰り返し受けた。

「あの人とどういう関係?」
「あの人とどうして同じ苗字なの?」
「あの人ってどういう人?」

俺は俺のことなんか何にも話せないけれど
広夢様のことなら、広夢様の魅力についてなら幾らでも話せた。
広夢様について話す俺の言葉は魔法の言葉となってそれを機に
クラスメイトにも広夢様に代わって相部屋になった人とも気さくに話せるようになった。

「なあ、なんで10日間だけ入れ替わったんだ?
 俺、寮長から10日間だけ代われって言われて従ったんだけど。」
相部屋のルームメイトは瀬名と言った。
サッカー部で日に焼けた肌の白い歯が綺麗なオトコだ。
ぶっきらぼうな物言いだけど悪意がなくて率直なので話しやすい。
「俺は世間にうといし、初めての海外でいきなり学校だったから
 たぶん、10日間、慣れるまでそばにいてくれたんだと、思う。」
「なんで10日間?
 もっと一緒にいればいいじゃん。
 仲いいんだろ?学年もおなじだろ?」
「・・・ずっと一緒だと俺は変らない・・からかな。
 きっとヒロム・・・さんに頼ってしまうから。」
同級生で様なんておかしいでしょ。呼び捨てで呼ぶこと。
と言われた俺が必死で譲歩した呼び方で呼ぶけどそれでも瀬名は不思議な顔をする。
「それと、なんでさん、付け?
 苗字も同じだし、でも似てないし、親戚か?」
「そんな、ところ。
 俺はあの人に恩が、とても返せないだろう大きな恩があるから。」
「ふうん。
 ちょっと冷たい感じに見えたけどいい人なんだ?」
「うん。とても。綺麗で優しい人だよ。」
「おまえすっごいそのヒロムって人のこと好きなのな。」
「うん。好きだと思うのがおこがましいくらい好きで尊敬してる。」
「で、その10日間以来も仲良くしてんの?
 俺、割とサイと一緒にいるけど話したりしてんの見たことないし。」
「ううん。
 10日間過ぎてから一度も話してないよ。」
「マジで?もう夏だぞ。
 入学して半年過ぎてんぞ。」
「うん。」
「寂しくねぇの?
 つかそれどういう関係だよ?」
「寂しい・・けど仕方がないんだ。
 俺が構いたくなるような魅力がないから。」
「はあ?意味解んねー関係だな。
 面倒見が良いのか悪いのか、優しいのか冷たいのか解んねぇな。」
「優しいよ。俺が強くなるために冷たいんだ。」
「ふうん。
 ・・・俺はサイが自分で思ってるほどダメな人間じゃないと思うけど。」
「ありがとう。
 でもまだまだなんだ。
 もっとずっと頑張らなくっちゃ。」
「ま、そういう気持ちって大事だよな。
 俺もサッカーそこそこできるほうだったのに
 ここじゃベンチにも入れてもらえない有様だしな。
 お互い自分を高めるために頑張って努力しようぜ!」
「うん。」
瀬名が同部屋のルームメイトでよかったなぁって思う。

なりふり構わずに頑張ると時間はすぐに過ぎる。
勉強に励むと言うのは数字で結果が出るから達成感がある。

「彩、外出許可取ってあるからディナーに行こう。」
教室を出たところに広夢さんが待っていてそう言った。
ようやく成績が上位に入り始めた頃の落ち葉の舞い散る秋だった。

リムジンで乗り付けたホテルの一室で
制服から広夢さんが用意した正装に着替える。
高層階にあるシャンデリアが掛かった広い部屋。
さらに高層階にある静かで煌びやかな最上階の店に入る。
予約がされていたようで奥の他人の目が気にならない個室のような席に通される。

広夢さんの身のこなしは相変わらず優雅で手馴れていて
久々に近くで見れたその物腰や綺麗な顔や髪に俺は見惚れる。
「なあに?俺の顔になにかついてる?」
「いえ。お久しぶりだなと思いまして。」
「ああ、そうだね。久しぶり。
 今回の成績見たよ。頑張ったね。」
広夢様のすらりとした手が俺の頭に伸びる。
日本で言うところの(ここだと4期性)高校1年にもなって
それ以前に俺は20歳を回った年齢ではあるのだけれど
おかしな光景なのかもしれないけれど俺は広夢さんに撫でられると嬉しい。
「ありがとうございます。」
「ふふ。なんだか少し背筋が伸びたみたい。
 いい資質持ってたのかもしれないね。彩。」
「資質・・・ですか?」
「うん。俺のサポートできるだけの資質。
 ちょっと魅力的になった彩に、乾杯。」
そそがれたシャンパンのグラスを持ち上げる。
俺も同じように持ち上げあげて同じように飲んだ。
酸っぱいような辛さが広がるのに飲み干すとどこか甘くて
キラキラした炭酸がグラスの中で踊るのが綺麗で爽やか。
広夢さんみたいだ。
馴れないアルコールが入っているせいで頬が熱くなるのが解る。
うっとりとしながら順番に運ばれてくるどれも美味しい料理を口に運ぶ。
目の前に広夢さんがいる。それだけで夢のようなのに夢のような場所に
アルコールに料理にキラキラしたシャンデリア、窓の外に広がる夜景。
「夢、みたい、です。」
「なにが?」
「広夢さんといれることが。」
場所より何より俺はあなたといたかったから。
「そう。」
ふっと笑う。
ああ、懐かしいな。
「こんな豪華な場所なのに
 初めてラーメンを食べたあの場所を思い出します。」
「ふふっ。個室だからかな。
 彩らしい感想でなにより。
 なあに?相変わらず人の目は苦手?」
「好きではないですがあまり気になりません。」
「ふふっ。そうでなくちゃここまで来た意味はないよ。」
「はい。」
「彩、」
「はい。」
「あと1年だ。」
「あと1年?」
「俺はね来年飛び級で3年になる。」
「え?」
「だからあと1年。
 俺とここで学ぶのはあと1年だよ。」
「あと1年・・・・」
「そう。捨てられたくなかったら、
 自由になりたくなかったら、
 俺を必死で追っておいで。」
「はい。」
ああ、どこまでも遠くへ跳んでいく
ああ、どこまでも速く高く飛び立っていく
この俺の神様はどこまでも気高く美しい
俺はまだその背を追ってもいいと言うのなら
俺はまだあきらめないでもがいて追いたい。
「はい。」
もう一度決意を込めて言うと
「おいで。」
と食事を終えたテーブルから手を引かれた。

赤い色の間接照明が灯る部屋。
俺はアルコールの熱に浮かされるまま広いベットに座る。
きっちり締められたネクタイがきつく感じる。
そのネクタイに広夢さんの手が掛かったかと思えば
そのネクタイを引っ張られてあごが上がる。
唇にとても懐かしくて愛しくて恋焦がれた久々の熱が降る。
「広夢・・・さ・・・まっ・・・」
「さん、でしょ?」
「んっ・・ふっ・・・」
熱が深みを帯びる。
アルコールにしびれた舌が広夢さんの舌に絡めとられる。
熱い苦しい愛しい嬉しい気持ちいい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい。
目のふちに涙がたまるのが解る。だってまたキスしてもらえると思わなかった。
「なあに?
 泣くほどいやなの?」
「ちがっ・・・泣くほど
 胸が痛いほど嬉しいです。」
「そう、ならいいよ。」
もう一度深いキス。
これは何のキスですか?
成績を上げたご褒美のキス?
よく頑張りましたのご褒美のキス?
それとも俺にだけくれるトクベツなキス?
「ひろ・・むさ・・・ま」
「さん。」
「ひろむさん、おれ、おれ・・・」
「なあに?」
「うっ・・えっ・・えっ・・・おれっ」
「泣き虫は相変わらずなんだ。」
「俺・・・俺は貴方が好きです。
 広夢さんがどうしようもなく好きなんです。」
「知ってるよ。」
広夢さんが意地悪そうに言う。
「わざわざそんなことを言うなんて
 彩、おまえは俺に何を期待して言うの?」
「期待・・・俺は・・・貴方の役に立ちたいんです。
 いままでずっと話すこともできなくて辛くて
 俺は役立たずで無力な自分が悔しいばかりで・・・」
「キスされたから欲が出たの?」
「まだ、俺にキスしてくれるのはなぜですか?」
「ああ、それが聞きたかったんだ?」
「はい。俺なんかに、」
もう、魅力がないと見切られたはずだったのに。
「頑張ったからだよ。」
「ありがとうございます。」
やはりご褒美をくれたのだ。
「それと、
 少しだけ魅力を感じたからね。」
「え?」
誰が誰に?広夢さんが俺に?
「気が向いたら抱いてみようと思ったけど
 相変わらず泣いてるから今日はやめとく。」
「どうして・・・広夢さん・・・俺・・・」
ぐぐっと涙を堪えるように口をへの字に結んだら
ふふっと広夢さんは笑って
「いやがって抵抗して泣くのならおもしろそうだけど
 嬉し泣きしてるようなのをいきなり抱くのはつまらない。」
以前嫌がって泣いていたときも抱かなかったのに
どのみち俺を抱く気がないんだと寂しくも気付く。
あの時の俺は本当にそういうことに無知で恥ずかしがったけど
今はいろんなことを知ってる。寮でも男同士で愛し合ってる人もいる。
たとえ広夢さんが俺にそういう行為を行っていてもそれは愛じゃないけど。
「広夢さんの愛する人なんて俺には想像もつきません。」
「そう?普通の魅力的な人だよ。」
「いまどうしてるんだろう?って思いませんか?」
俺は思った。
最初の10日間以降今日までずっと。
広夢さんはどんな風に過ごしてるんだろうって。
広夢さんに抱かれるのってどんなんだろうって。
「そりゃねぇ。
 でも、やっとどこで何してるのか突き止めたから。
 だから俺は飛び級して留学して逢いに行くことにしたんだよ。」
ああ、飛び級の理由はそれだったんですね。
ああ、追いつける羽なんて初めからなかったんだ。
「逢ったらどうするんですか?」  
「今日はやけにしつこく聞いてくるんだね。
 酔ってるの?まあいいや。聞かせたい位だし。
 今度こそ掴んで捉えて絶対に離さないしどこにもやらない。
 俺だけのものにして俺だけの秘密の箱に閉じ込めて一生愛すよ。」

広夢さんの秘密の箱に閉じこもって一生愛される。
どれだけ俺の望む理想の場所なんだろう。
俺の分際でありながら羨ましくて泣きそう。

広夢様がなにをしたのか
どうして俺にあんなことをしたのか
あの行為がそもそもどういう意味を持つのか
結局何も解らないままいつもの生活を続けた。

ただ広夢様は怒っていた。
何で?
「あんまり目障りなことしてると
 これ以上の痛い目見ることになるよ。」
何に?
「なんでいっつもここに来るの?」
広夢様を追ってまたあの部屋に入ったことに、だろう。
そうだ。だから怒っていたんだ。怒ったからお仕置きをした。
ああ、あの行為は、広夢様を怒らせたことによるお仕置きだったんだ。

殴られもしないお仕置き。
熱くて苦しくて息があがるくらい感じてしまうキス。
広夢様に触られて気持ちよくて放ってしまった俺の熱。
変なところを触られてしまったけれどそれすらお仕置きとは思えなかった。
むしろ今思い返せば俺ばかり感じさせられて熱を放って気持ちよかったんじゃないか?

色んな感情と熱に浮かされてわけも解らず泣いてしまったけど
恥ずかしいのと広夢様を汚しているような背徳心苛まれただけで
その行為自体に俺は傷つけられたわけでも辛く感じたわけでもない。

そう、むしろ。
俺を求めているような
体中を愛してくれているような
愛撫や、キスや、広夢様の熱が嬉しくて心が震えていた。
けれどそんなのマヤカシだから解らなくなって混乱したんだ。

あれから広夢様はあんなことはなかったかのように振舞っている。
広夢様からしたらただのお仕置きなんだから俺の罪があってお仕置きして終わり。
その先になんの進展も発展もない完結したこととして受理されたということなのだろう。

でも、俺の熱は冷めない。
いちどあんなふうに触られたらもっと、と思ってしまう。
だからたぶん怒らせるのを解ってるくせにこんなことを言ってしまうんだ。

「広夢様。」
「なあに。」
「あの部屋・・・あの部屋は、何なんですか?」
「ソレ聞いてどうするの?」
案の定、一変、不機嫌な表情と声が返って来る。
「あの部屋での広夢様はいつもと違う、から。
 違うように見えた、から。」
「ダカラ?
 俺の質問の答えになってないんだけど?」
「なにか・・・広夢様にとって辛いことがあるなら」
「あるなら?」
「俺になにかできることがあるなら、俺」
「なに?」
「俺ならなにされても傷つかないから
 痛いのも平気だしだから俺は・・・俺は」
「なにが言いたいの?」
「俺は広夢様に笑って欲しい・・です。」
ぎゅっと目を閉じて告げる。
俺に辛く当たっているようで
いつも辛そうに見えるのは広夢様だ。

ああ、そうだ。そういうことなんだ。そうなんだ。
あの行為の最中も広夢様が楽しそうならよかったんだ。
広夢様はお仕置きのつもりながら俺をよがらせてるのに
広夢様自身は気持ちよくもなければ楽しそうでもなかった。
だから俺は広夢様に何をされてもいいのに泣いてしまったんだ。
そんな辛い顔して俺の汚い身体を探る美しい人が悲しかったんだ。

「彩に言われなくても笑いたきゃ笑ってる。」
「そう、です、よ・・ね。」
「なんでもとか言いながらあのときおまえは泣いてたじゃない。」
「それは、」
「なに?」
「広夢様が泣いてるように見えたんです。」
「俺が?」
「俺なんかにこんなことしたくないのに
 無理やりさせられてるみたいに辛そうだったから」
「ただのバカだと思ってたけど
 いろいろ考えてるのは褒めてあげる。」
「広夢様・・・」
「と同じだけ勝手な憶測されるのはむかつくから
 教えてあげる。」
「はい、広夢様。」
「あの部屋はね俺の大好きな人と愛を育んだ
 大事な思い出の部屋なんだよ。」
「愛?」
「おまえとはできないこと。」
「俺とは?俺・・・」
「知らずに言ってるの?
 まあ、こないだもそんな感じだったっけ。
 男同士は直腸で愛し合うんだよ。
 肛門に性器を挿入しあうって言えば解る?」
脳裏にあの時の行為を思い描いて
あんなところを触られていた違和感の意味を知る。
「馴らそうとしたんだけど、途中で面倒くさくなっちゃったわけ。」
そんな俺の思考を読んだ様に広夢様は続けた。
つまり広夢様は俺を愛そうとしたってことなのか?
そんなことがあるわけないとあの時の広夢様の表情で打ち消す。
「俺は馴らさなくても、平気です。」
痛かったのは覚えている。
痛くされても俺はいいんだ。
切れて裂けて死に掛けたって。
「相変わらず短絡的で利己的で偏った思考してるね。
 俺がキツいんだよ。そもそもそこに愛はない。」
「あ、」
「自分で馴らして自ら俺の生処理のために
 動いてくれるってんならありがたいかもね。」
  
ずっと探していたんだ。
俺なんかが広夢様のためにできることを。
最初から広夢様は言っていたじゃないか。
「オトコ相手に性欲わくかの実験台くらいにしかなんねぇよなあ」
あれはこういう意味だった。俺はそのためにキスしてもらえたのだ。

「でき・・・ます。」
広夢様は軽く目を見開いて笑った。
「殊勝なことを言うね。
 どうする行為かも今知ったくせに。」
「お・・覚えます。俺は・・・」
「俺はおまえに魅力を感じないから結構だと断ったら?
 俺結構もてるし、実際そっちでは不自由してないんだよね。」
「でも、俺に、俺に・・」
「あれはお仕置きだよ。
 ついでに俺も生処理したかっただけ。
 残念ながら途中で萎えちゃったけどね。」
「俺はなにをすればいいですか?
 どうしたら広夢様のお役に立てますか?」
「先ずは俺が抱きたいって思うような人間におなり。
 これも最初に言ったけれど結局は俺の気分次第なの。」
俺が広夢様が欲しいと、抱きたいと、思われるような人間に?
なれるわけがない。
なれるわけがないじゃないか。
俺なんか誰からも愛されたことがないのに。
ましてや神様みたいな始めて好きになった人なんかに。
「バカなことばかり言ってすみませんでした。」
「彩?」
「俺、部屋にもどります。
 もっともっと勉強しないと・・・」
「そう。いい心がけだね。」

気休めだと解ってるけれど
広夢様が俺に対して前向きな言葉をかけてくれると
ああ、そばにいさせてもらえるだけがんばれるなって思う。

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BrownBetty 
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