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16禁注意!

******

俺の、俺と広夢様の入学する高校は東欧にあった。
「ちょっと本気で音楽を学ぼうと思って。」
と広夢様が言ったから。
学校は街にあるわけではなく、
ずっと山奥のバスも電車もないような高所にある。
だから全寮制が基本でギムナジウムと言うらしい。
まだ行ったことがないから全部広夢様に聞いた話だ。
無事に入学通知が2枚届いて広夢様に久々に撫でられた。
「よく頑張ったね。」それだけで何もかもが報われた気がした。
その後何度か屋敷でパーティが開かれたりたのでたくさんの人を見た。
最初は隠れて見てるだけだったけどベランダにいる少人数の人たちなら
広夢様や使用人の林さんを介してちょっとだけ会話ができるようになった。

--------世界は、外の世界は、もっと広い。もっと果てしないし、もっとたくさんの人が居る。
以前広夢様が言った言葉だ。
まだまだ狭い俺の世界だけど
ここに来る人は世間でも評価を受けている人ばかりだと林さんは言った。
俺は怖がりだから人を必要以上に警戒するし観察していたけれどそれでも
広夢様に感じたあの衝撃的な完璧さは他の誰にも感じることはできなかった。

やっぱり広夢様は神様だと何度も思った。

今日は雨が降っている。
広夢様は被写体がくっきり浮かび上がる青空の日が好きだと言うけど
どんよりとした灰色の空に降る雨は自分の存在を隠してくれるようで安心する。

目を閉じて雨音を聞いていると
誰かが雨の中を歩く音を聞いた。
こんな雨の中を?
そう思って窓から見ると
あの日は雨が降っていなかったけど
あの日と同じように中庭を通って物置にしている建物の影へ
姿を消して行く間違いようがない広夢様の姿が目に入った。
なんだか放っておけないような追わなきゃいけないような
不思議な気持ちで部屋を出て広夢様の影を追った。
今となっては部屋を出るのも屋敷を歩き回るのも平気だ。

「広夢様?」
そうだあのときも電気は点かなかった。
今日は雨も降っていて部屋の中は薄暗い。
入り口で名前を読んでみたら暗闇で影が動いた。

「だれ?」
「あの・・・お・・・」
「だれ!?」
「俺・・・さ・・・」
「先輩?」
「え?」
「先輩!?」
影がゆっくり近づいてきた。
ああ、広夢様だとわかった。
広夢様も俺を見て俺だとわかったみたいで
「おまえか」と呆れたみたいに溜息をついた。
「ごめんなさ・・・」
「なんでいっつもここに来るの?」
今までに見たことがないくらいあからさまに不快な表情。
こういう表情には免疫がある。
中学の時に俺をいじめたクラスメイト。
ひきこもったときに俺を毎日毎日殴った人たち。
それでも広夢様は綺麗な顔で俺は見惚れてしまう。
「ひろむさ・・・」
後ずさりをしかけた身体を掴んで引き寄せて
どれくらい久しぶりなんだろう噛み付くようなキスをされた。

「・・・ふぁ・・・んん」
「ふっ・・・はぁっ・・・」
いつになく乱暴なまでのキス。
激しい喰らわれてるかようなキス。
息がつけないほどすべてをからめとられて苦しい。
苦しいのに苦しいのに這いまわる熱が広夢様のだと思うと泣きそうに嬉しい。

ゴッ・・・!
鈍い音がして背中に痛みが走る。
カーペットを敷いた床に押し倒されたのだと気付く。
湿った風がふいて胸元がひんやりするのは服を脱がされているからだと気付く。
カチャカチャとベルトを外し履いているものをすべて剥ぎ取られていくのが解る。
「んんんっ・・・はっ・・・」
「んくっ・・ふっ・・・」
その間も激しいキスは続いている。
熱くて苦しくてぼうっとしてきて意識が飛びかける。
熱い、苦しい。熱い、苦しい。熱い、苦しい。俺を殺して。
目のふちに涙が浮かぶのが解る。熱くて苦しくて切ない。

ちゅっちゅっ、と
漸く解放された唇から首元、肩、胸の突起へ、
広夢様のキスが時に痛みも伴って降っている。
噛まれたり、吸われたりするたびに、痛いのに身体が跳ねる。
もっともっと俺を痛めつけて、貴方が俺に関心を向けているのを感じさせて。
「はぁっ・・・あっ・・・ぁ・・・ろむ・・・さっま・・・」
「黙れ。」
心の無い冷たい声。
「んっ・・ぁ・・・むっ。」
その言葉に応たえようと口を塞ぐ。
そうでもしないと声があがってしまう。
広夢様の手は下へと伸びて行きすでに
勃ちあがっているだろう俺のモノを掴んで上下に擦る。
「あ・・・だめ・・・だめですっ。」
恥ずかしくて申し訳なくて思わず声をあげると
「黙れって。」
と口をもう片方の手で押さえられた。
そんなことを言われても俺の身体は熱くて熱すぎて
広夢様の触れる場所に感じ尽くした俺の身体もう
いまにも体内の熱を吐き出してしまいそうだった。

カリッ
とその先に爪をあてがわれた瞬間もうダメだった。
「ぃっ・・・ク・・・」
長くて綺麗な指に、薄くて大きな手に、
俺は汚い白濁の熱を解放してしまった。
「ごめんなさい・・すみませ・・・」
とうとう涙がぽろぽろこぼれて泣きじゃくってしまう俺に
「うるさい。」
ひとこと言って俺の出した液体を俺の股の奥になすりつけた。
「え・・・・?」
そこは、だって、え?そんなとこ・・・だって。
触られているのは間違いなく排泄に使う穴。
「ひろむさま?」
「黙れって!」
あの綺麗な指が俺のあんな汚い所をくにくにと押したり撫でたりしている。
しばらくそうしていたかと思うとその指がぷつりとその中に押し入った。
「ううっ!」
痛い、苦しい、熱い、熱い、熱い。
ゆっくり入ってきては少し抜いてを繰り返す。
入る時は痛いしキツイけど出るときは変な排出感がある。
さっきの長いキスのときからぼうっとしている脳は蕩けたままだ。
そんな蕩けたままの脳でもこんなことをさせて申し訳ない気持ちと
どうしようもなく恥ずかしくて情けなくてやるせない気持ちが交差する。

「えっ・・・うえっ・・ひっく・・うううっ・・・」
涙と嗚咽がこぼれる。
この涙や苦しみは痛みの所為でも行為の所為でもない。
何をされるのか不安だけど怖いから嫌だと思う所為でもない。
俺なんかにこんなことをしなくちゃいけない美しい人への罪の涙だ。
「えっ・・・えっ・・えっ・・・」
「・・・・・」
広夢様が何かを呟いたかと思うと
指は抜かれ身体は解放されていた。

さっきまでの苦しい熱など無かったかの様に
手首に絡まっていた唯一の衣服を脱がすと
こないだみたいに備え付けのバスルームに連れて行かれた。
バスタブに湯ははられていなくて立ったまま熱いシャワーが掛けられる。
柔らかいスポンジにボディソープをあわ立てると俺の足、腕、胸、全身を洗う。
「広夢様・・・そんなこと・・・・」
もう黙れだとか、煩いだとかも言われない。
表情の読めない顔で無言のまま俺を洗っていく。
丁寧に髪の毛までシャンプーコンディショナーと洗われる。
そういえば広夢様はぐっしょりと濡れるがままに服を着たままだ。
「広夢様・・・服・・・も、いいです俺、」
それでも広夢様は何も言わない。
しっかり洗い終わったところでキュッと蛇口を捻ってシャワーを止めた。
バスタオルで身体を拭くことまで広夢様自らにされてしまって戸惑う。
なんだか広夢様に愛されているような大事に慣れているような。
錯覚でしかないのは解っているけれど嬉しくて泣きそうだった。
なぜこんな場所に置いてあったのか綺麗なシャツを
俺に着せている間も広夢様は濡れたままだ。
「広夢様、風邪をひきます。
 俺はもういいですから。」
「そう。」
やっと広夢様がしゃべった。
「背中、どう?」
「え?」
「最初に打ったでしょ?」
「あ、なんともないです。」
「そう。」
「広夢様?」
「少しは絶望を味わった?」
「え?」
「あんまり目障りなことしてると
 これ以上の痛い目見ることになるよ。」
広夢様はそれだけ言うと雨の降り続く外へ出て行く。
「あ、広夢様!雨降って!濡れます!」
「何をいまさら。」
確かにすでにバスルームでぐっしょりと濡れた姿のままの広夢様は雨の中に消えた。

広夢様は絶望と言ったけれど
俺はそんなもの微塵も感じなかった。
むしろ絶望を感じていたのは広夢様だと直感的に思った。
恥ずかしい汚い申し訳ないそんな気持ちが交差したけれど
広夢様に求められるなら俺はいくらでも痛みを与えられたい。



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広夢様は魔法使い。
広夢様は俺の神様。
ダテ眼鏡を掛けるとそこに壁ができたみたいで
人との間に一枚フィルターができた気がして
透明人間とまでは言わないけれど人の目が
ずっと気にならなくなったんだからすごい。

すごいすごいすごい。
すごいすごいすごい。

感情を表すと殴られていた俺は
感情を押し殺すことで逃げてきたけど
感情をいちばん表すのは顔の表情で
それを見知らぬ他人にさらすのは感情をさらすのと同じことで
それを俺は人に見られたくなかったから外出恐怖症だったんだ
じゃないと今屋敷から10mも離れてひとりでいるなんて説明がつかない。

ダテ眼鏡ってすごい!広夢様ってすごい!
すぐに走って屋敷まで逃げ戻るんだけれど
その間に一人の子供とすれ違った。
全くの他人とすれ違ったんだ。

自分に驚いてちょっと興奮して使用人の林さんに話したら
「よかったですね。」
と微笑んでくれた。
勉強も順調で
10mも屋敷からひとりで歩けて
その上知らない人とすれ違えた。
俺、変わってきたよ、成長してるよ、広夢様。
ねえ、俺を見て、俺を褒めて、俺の頭を撫でて。

「広夢様、御帰りなさい。」
「ただいま。」

さいきんきになることがある。

広夢様が俺を見ない気がする。
冷たいって言うよりそっけない。
挨拶を返してくれるけどそれだけ。
「彩、」って名前を呼んでくれないし、
ここのところずっと笑顔を見てないよ。
綺麗な顔をふっと緩めて笑う綺麗な笑顔。
俺の大好きな人の大好きな美しい笑顔が見たい。

「広夢様、」
「今はダメ。」
勇気を出して声を掛けたけれど
タイミングが悪かったみたいで断られた。
「ごめんなさい。」
ぽつりと言ったら
「うん。また今度ね。」
また今度。それはいつなんだろう。
他人があんなに嫌だったのに広夢様が構ってくれないとこんなにも寂しい

「広夢様?」
「はい。」
「どうでしょう。
 私にはいつもとお変わりないように見えますが。」
「そうですか。」
林さんにはいつもと変わりなく見えるんだって。
俺にだけ冷たいのかな。俺にだけ違うのかな。
あからさまにしょげているだろう俺を気遣ってか林さんが言った。
「広夢様はあまり人にご執着なさる方ではないのですよ。
 ですから貴方にあんなに構う広夢様には初め驚いたものです。」
「そう・・なんです・・・か?」
「ええ。
 今はあんなにも穏やかですが
 大変な時期もあったのですよ。
 それこそ誰も寄せ付けないほどに。」
「誰も?林さんも?」
「私も寄せ付けないときもありましたね。」
「俺には想像できないです。
 広夢様はいつも凛としていて完璧で何にも動じない
 俺には奇跡の人にしか神様にしか見えないです。」
「そうかもしれませんね。
 貴方にそう思われたいと思いながら
 そう思われるのが少し苦痛に思われているのかもしれません。」
「それは・・・どういう・・・?」
「人は誰しも完全じゃありませんから。
 人は人です。神にはなれませんよ。」
林さんはそう言って静かに部屋を出て行った。

せまいおれのせかいで
おれのかみさまをひていなんかできないよ。
ひろむさまはおれのかみさまでいてくれないと
おれはなににしたがっていきてけばいいんだよ。
だれかがいったじゃないか「支配するものにゆだねれば幸せになれるよ。」って。
なんでもいうことをきくよなんでもするよべんきょうもきょうふしょうこくふくもするよ。
おれのそんざいがふひつようでじゃまだとおもわれたならいつだってしんでもいいんだ。
だから、いきてるあいだは、あなたはおれのうつくしくかんぺきなかみさまでいつくれないとこまるんだ。

「後悔するよ。させてあげる。」
後悔なんてしない。
「門でお迎えできるまでになったんだ?」
「はい。1ヶ月もかかってしまいました。」

だって門には壁がない。
エントランスまでは壁がある。
扉を開けたときの開放感は怖いけど
一方方向だからそっちだけ注意を向ければ大丈夫。
しかも中庭に出て初めて気付いたけれど面が多いのだ。
右、左、前、後ろ、それから上にも空間が広がっている。
室内ではありえない場所にも開放的な面が広がっている。

「どうしてあんな狭い部屋がいいんだろうねぇ。」
広夢様はそう言うけれど俺に与えられている部屋は狭くない。
初めはもっと狭くてもいいのにと思うほど広すぎて怖かった。
「外はどこからも筒抜けなようで逃げ道がなくて怖いんです。」
「逃げ道?四方八方どこへでも逃げれるじゃない?
 むしろ部屋の中の方が逃げ道ないと思うけど?」
「あ、」
言われて見ればそのとおりだ。
「で、何から逃げてるの?逃げたいの?」
何から?
「あ、」
「何?」
「人の視線・・・から。
 人に見られるのが怖いんだと思います。」
「ああ、なるほど。そういう発想なんだ。
 前にも言ったけど自意識過剰なんだよ。」
「そう、なんです、よね。」
「そうでしょう?」
「俺を見て嫌な気持ちになられるのが怖い、です。」
「俺はならないよ。
 あ、でも逆にそういう考えには嫌な気持ちになるけど。」
「すいません・・・」
「直せばいいだけでしょ。」
「はい・・・」
「俺はね、彩、
 写真を撮るのが好き。
 移り変わる季節とそれに併せて変化する世界が好き。
 それをファインダーから覗いてシャッター切って映像に残すのが好き。」
想像する。
だって俺だって窓から見ていた。
日が傾く燃えるような夕焼けの色。
澄んだ空気まで見えてきそうな透明な朝焼け。
俺にとっての窓は広夢様のファインダーだったんだ。
「窓からじゃ見えない景色がありますか?」
「あるね。自分が向かうからこそ角度もできる。」
角度。
2週間。
部屋にこもって、広夢様に逢えないで、窓から覗いてた日々。
窓の外の広夢様はいつだって横顔だったり後姿だったり一辺でしかなかった。
勇気を出して部屋を出てこうして俺から向かう広夢様には色んな角度がある。
そういうことなんだ。

「そうですね。
 俺も広夢様の見る景色も見たいです。」
「俺の見る景色”も”って何?」
くすくす笑う広夢様。
広夢様の好きな景色を見る広夢様が見たい。
「広夢様の撮った写真でいちばん綺麗な景色はどんなのですか?」
見せてもらえたらいいな。
俺もそれが見たいと思えるだろうから。
外に行きたいと思うきっかけになるだろうから。
そうしたら、
「もう見れない景色。」
と、ちょっと真面目な顔で言った。
「二番目の景色ならいつか連れてってあげる。」
「ありがとうございます。」
お礼を言ったら広夢様の顔が俺に近づいた。
キスされるのかな?キス久しぶりだな。って
ちょっとドキドキしながらも触れるのを待っていたけど
俺の思惑に反してキスはどこにも降って来なかった。
「はい、
 これ門までお迎えできるようになったご褒美。」
もう普通の顔で、俺から離れて、
俺の耳にダテ眼鏡を掛けて言った。
「眼鏡?」
「閉じこもりのおまえの部屋の窓が
 俺にとってのカメラのバインダーだと思うなら
 今日からこれがおまえの窓。移動できる窓だよ。」
さっき俺が思ってたことを見透かしたように言った。
これが俺の移動できる窓になる?このダテ眼鏡が?

「なるよ。」
そう言って広夢様は美しく笑った。
広夢様が言うのならきっとそうなるんだろう。

「広夢様。」
「なあに?」
「あの・・・さっき・・・」
「さっき?」
「眼鏡を掛けてもらうとき・・・」
「うん?」
「キス、されるのかと思いました。」
「ふうん。」
「してもらえるのかと期待してしまいました。」
「そう。」
「もう、しな・・・してもらえないんですか?」
「気が向けばするよ。」
「そう・・ですか・・・」
「してもらいたいように聞こえるよ、彩。」
「して・・・もらいたい・・です。」
「そういうこと言う子にはしない。」
「え・・・あ・・・」
「でも、素直なのは好きだよ、彩。」
好きだよ、彩。だけ反芻してしまう。
それだけで安心して涙が出そうになる。
「俺は意地悪だから、じらしておまえのそういう顔、見るの好き。」
ふふっと笑う。
意地悪な笑顔も綺麗だった。
「彩、」
「はい。」
「俺を好きになる気持ちは解るけど、
 これ以上好きになったらだめだよ。」
「え・・・・」
こんなに好きになっているのになんでそんなことを言うんだろう。
独占したいなんておこがましいことは思わないからせめてそんな
突き放すような、心を否定するような、悲しいことは言わないで下さい。
「裏切られて傷ついて後悔するのはおまえだよ、彩。」
「後悔なんかしません。」
あなたに傷つけられるなら
この身をナイフでズタズタに
血も流れなくなるまで切りつけられても、きっと幸せ。

「後悔するよ。させてあげる。」
ふふっと笑った。

広夢様は学校に行っている。
俺は言われたとおりに勉強をしながら
広夢様は学校ではどんな感じなんだろう?と考える。
使用人の林さんは広夢様はとても成績がいいのだと言っていた。
広夢様には弱点なんてきっとないのだろうと俺はいつも確信する。

俺は年上なのにバカで何の役にも立たないろくでなしだ。
広夢様を思うたびに同じだけそう思うと勉強が進んだ。
今のままじゃダメだと、変らなければと、思えるから。

「頑張っておられますね。」
林さんが程好く甘いココアを入れてくれた。
人に背後に立たれると怖いのに林さんだけは怖くない。
むしろ包み込まれるような、見守られているように暖かい。
「ありがとうございます。」
お礼を言って一口飲んだ。ああ、このココアも温かい。
「広夢様が買ってこられたココアなのですよ。」
「え?」
「貴方に飲ませたかったそうです。
 程好い甘さが脳を活性するんだと仰って。」
「俺のために?」
「はい。
 ここのところあまりお話されてないんでしょう?」
そうなんだ。
最近、もう2週間も広夢様とは逢っていない。
一方的に俺が探してただ目で追っているだけ。
だって広夢様は俺に逢いに来てくれないんだ。
確かに何処かへ出かけたりもしているけれど
この屋敷にいることだって多いのに逢えない。
「俺は嫌われているんでしょうか?」
「そうでしたらココアなんて買っていらっしゃらないですよ。」
林さんは小さく微笑んだ。
「でも、逢えないんです。」
「逢いたいのですか?
 それとも逢えないことが不安なのですか?」
「え?」
林さんは黙って俺を見ている。
考えろってことなのだろう。
逢いたい?
逢えないことが不安?
逢えなくて、嫌われてるのかと不安だけれど
俺は広夢様が好きで好きでだから必死なんだし
前にキスまでしてくれたのに俺に興味ないみたいに
急に逢えなくなって広夢様が足りなくて寂しいんだ。

寂しい。

「逢いたいです。不安だし寂しいです。」
そう言ったら
「ココアのお礼を貴方から言いに行くことだってできますよ。」
と林さんはゆっくり笑った。
「こもって勉強する貴方がこの部屋を出て、
 貴方から広夢様を追うことは自然な行動ですよ。」
林さんはそういって会釈してから部屋から出て行った。

俺がこの部屋を出て?
ああ、そうだ、俺は勉強を理由に部屋から出ないままだった。
そもそもこの部屋まで広夢様が訪ねて来たことなんかなかった。
俺から広夢様に話しかけるなんて考えたこともなかったじゃないか。
広夢様の登校時間も帰宅時間も大体把握して窓から見てたくせに。
それに俺は勉強もだけれど恐怖症の克服と言う課題だってあったんだ。

ああ、そろそろ広夢様の帰宅時間だ。
今すぐ部屋を出よう。
まだ俺は多少の勇気もいるし。
それには時間が掛かるだうから。
門までは行けないけれど玄関ホールまで。
次は門まで行けるようにイメージトレーニングもしよう。

ココアのお礼の前に言うんだ。
「御帰りなさい。」
 

気がついたらいつも殴られていた。
なんでこんなに殴られるんだろう。
人はどういうときに人を殴るんだろう。
こんなにも一方的にガンガン殴られると
ああもう好きにしてくれいっそ殺してくれ
せめて一発で意識がふっとぶのを頼むよ
そんなバカなことしか考えらない自分がいた。

小学校は楽しかった。
友達もいたし好きな子だっていたんだ。
なんて名前だったっけ?殴られすぎて思い出せないや。

中学校は少しだけ通った。
友人は不登校になりがちな俺から少しずつ離れてった。
そんな頃からだったかな?変なことが身の回りで起き始めた。
それがいじめだって気付いたのと完全に不登校になったのどっちが先だったかな。

高校はそもそも受験すらしなかった。
世界は暗闇だと思っていたし殴られすぎて身体が起こせなかった。
朝焼けと夕焼けの明るさの違いで今が朝なのか夕方なのか寝転んだままで知るんだ。
排泄した時に便器が真っ赤に染まるほど血尿が出たのには驚いて俺はもう死ぬなって思った。

光が現れたのはいつだっけ?
それは俺にとって救いだとは思えなかった。

殴られるよりも怖かった。
見たことのない人。
見たことのない場所。
知らない人たちの声。
知らない場所の空気。

構わないで俺に。
放っておいて俺を。
こんなわけの解らない世界に連れ出されるなら
あのまま殴り続けられて死んだ方がよっぽどましだ。
こんなわけの解らない世界で生きていけだなんて
あそこでうずくまって夕焼けを見ながら死なせてくれ。

そう思いながらただ震えていた。
わけのわからない怖さよりも
痛みの実感が伴う怖さの方が
状況が解るだけずっとましだ。

それから何年もの記憶が無い。
あるのかもしれないけれど酷く断片的で
あるんだろうけれど思うようには思い出せない。
だからあるようでないのと変らない曖昧な記憶、まるで俺の存在みたいだ。

誰かが話しかけたけれどただ怖いだけだった。

震える俺に与えられたのは四方八方白い壁の部屋。
そこにひとりでいるときが至福の時。
殴られないし怒鳴られもしない。

そんなときにもう一度闇が帰ってきた。
突然の暴力と共に俺はまた闇に引きずられた。
このとき俺はたぶん、俺の感情はたぶん、死んでしまった。

再び光が俺を闇から連れ出して
それからハコに閉じ込められて
俺は死んだように眠った。

目が覚めたら待っているのは闇なのか光なのか。
どちらだってたいして変わらない世界なんだよ。
助けてなんて言う相手もいないのに言わない。

揺れる乗り物に乗せられて再び闇から光の下に戻ったら
「光も闇ももうキミを支配しない。
 キミを支配する者に逢わせてあげる。」
誰かがそう言った。
「そこには怖いものは無いよ。
 支配するものにゆだねれば幸せになれるよ。」
誰かがそう言った。

幸せ?
なにそれ。
そんなものいらない。
白い壁の部屋に俺を戻してよ。

「だめだよ。
 いいからただ、従ってごらん。」

ああ俺はずっとひとりでいたい。
ちいさな匣の中に閉じこもりたい。
誰とも会いたくないし話したくない。

そう思いながらも
「ただ、従えばいいんだよ。」
追い討ちを掛けるように告げられた言葉を反芻していた。

薄曇りの空。
湾曲の美しいフォルムの門をくぐって
緑色の広い中庭を弧を描きながら進んだ先で
大きな両開きの扉の開かれたその奥に入った。

俺はそれを匣の中から見ていた。
薄暗い部屋で俺の匣は開かれた。

誰にも見られたくない俺は
その薄暗さのおかげで少しましだった。
ゆっくり匣から這い出ると空気の様な人がいた。
存在を暴力的にも威圧的にも擁護的にも主張しない。
人形のようにただそこにいて「落ち着いたら声をかけてください」と言った。
初めて受ける受動的な対応に俺はいつになく落ち着いた気分で「はい」と言った。

「ここはどこですか?」

初めて会う人。
初めての場所。
それなのになんだか大丈夫で
足は震えているけれど声は震えなかった。

「屋敷の一室です。
 私の名前は林と言います。」

ゆっくりと丁寧な声が返って来た。

「俺は・・・」
言いかけて「キミを支配するものに逢わせてあげる」
と言われた言葉を思い出す。もしかしてこの人が?
「俺の支配者は貴方ですか?」

林、と名乗った人は瞼を伏せてゆっくり首を振った。
俺は少し残念な気がした。
だってこの人ならいいと
この人なら怖くないような
そんな気がしていたから。

そんな俺に小さく微笑んで
「窓の外が見えますか?」
と林・・・さんは言った。
「窓の・・・外?」
「はい。中庭が見えますか?」
「はい。」
俺は窓の向こうから自分の姿が見えないように立ちながら
そろりと窓の外の緑の中庭へ目をやった。人がいた。
「あそこにおられるのが貴方を引き受けた方ですよ。」
林さんはゆっくりと言った。
俺を、引き受けた、人?
「俺の支配者ですか?」
「所有者、と申した方が正しいかと思います。」
「所有者・・・」
あの人が。
後姿の長身の人がこちらに振り向くのが解った。

息を飲んだ。
だってその人は若く美しい絵画から抜け出たような神々しい人だったから。

『支配するものにゆだねれば幸せになれるよ。』
そんな言葉が呪文のように蘇った。

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BrownBetty 
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