「明日は一日スポーツテストだ。
くれぐれも運動着を忘れないように」
と担任の笹山先生が言った。
スポーツテストだ?
うってつけじゃねーか。
誰にだって負ける気はしねぇ。
そう思って月代をガン見したら、
月代は首をかしげて笑いやがった。
「勝負だ月代!」
「勝負?何?」
「スポーツテストに決まってんだろ!」
「ああ、明日の」
「そうだ!」
「どの種目で?」
「全部だ!」
「全部ねぇ……まあいいか。了解」
ここで世話焼き古泉登場。
「つっきーごめんねぇ。
水品がバカで。
バカバカしいこと言って」
なんだよ古泉バカバカ言いやがって。
「いいよ。なんか退屈してたし。
むしろありがたい」
なのに月代はそう言った。
ありがたい、だって。
こいつバカじゃねーの。
だって寮生じゃねーの見たら
月代運動部でもなんでもねーし。
俺、バリバリのサッカー部期待の星だし。
俺に勝てると思ってんの?バカじゃねーの?
そんなこと口に出さずに思ってたら、
月代が心でも読みとったのか俺を見て、
「負けるつもりの勝負なら受けないよ」
と大きめの黒目に俺を映して真面目に言った。
古泉はやれやれと言った顔で
俺と月代を見やってから
「ほどほどにね」
と呟いた。
そこで改めて俺は考えた。
あれ?さっきも思ったけど俺、バリバリの運動部じゃん。
毎日走り込んでるしくたくたになるまで部活で汗かいてる。
一方月代は?
ただ俺が一方的にムカついているだけで勝負を挑んだけど
ぶっちゃけなんのハンデもなくなんで俺の勝負受けたりするんだ?
負けて当たり前と思ってのことか?
否、月代の目はそんなこと思っていない。
「ハンデいるか?」
俺はバカだからこんなことを聞いたら、
「いらない。ガチでな」
といつもと違う真面目な顔のまま答えた。
なんか胸の奥がギュッとなった。
ムカついてごめんとか
バカにしてごめんとか
そういう言葉はいらないと言われた気がした。
「おう。明日な」
それだけでいいような気がした。
「楽しみだな」
月代はそう言って笑った。
また胸の奥がギュッとした。
俺は月代を嫌いなわけじゃない。
嫌いならこんな気持ちになったりしない。
もし勝ったら、
勝負に勝ったら、
俺は、俺は、俺は!
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