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本当は気付いていたのだろう。
気付いていたけれど気付かないふりをしていた。
気付いていたけれどそんなことあるわけがないと否定していた。

だってまさかそんなこと考えたことがなかったから。

『ついに認める』

廊下でプリントを見ながら歩いていたら
注意が散漫になってしまって目の前の人物にぶつかってしまった。
そのままプリントを散り落としながら仰向けにしりもちをついてしまう。
「大丈夫?」
「すまない、」
ぶつかったのは月代だった。
俺が落としたプリントを手早く集めて俺に向いて膝と手をついている。
それは俺に覆うような体制にあるために顔がとても近くにあって驚く。
---------キスしてしまう。
そんなはずはないのにそう思ってドキドキした。
月代はなんでもないようにそのまま膝を立てて俺に手を差し出した。
勿論その手はキスをするために差し出されたものじゃなく俺を立たせるためだ。
「怪我してない?どっか痛くない?」
「大丈夫だ。月代こそ・・・」
「俺は大丈夫、なんともない。
 はい、プリント。たぶんこれで全部あると思う。」
と周りを見渡しながら差し出される。
俺が呆けている間に全部拾ってくれたらしい。
「すまない、ありがとう。」
「いやいや。
 疲れたまってんじゃない?
 あんまり無理すんなよ?」
そう言って首を傾げると「じゃあ」と去っていく。
それがなんだか無性に寂しく感じられて思わず月代の服の裾をつかんでしまった。
行きかけた月代の身体がくいっと止められて月代が不思議な顔つきで振り返った。
「あ・・・」
「ん?」
「すまない。」
「いいけど、どうした?」
「あの・・・」
どうしたと言われても俺自身が解らない。
もうちょっと一緒にいたいとか言うと可笑しいだろう。
だいたい離れる月代の背中をどうして寂しく思ったのか。
「上杉?」
「・・・・うん・・・その・・・」
「具合でも悪い?
 保健室付き合おうか?」
「頼んでもいいか?」
「いいよ。行こう。」
言葉が上手く紡げなかったから月代の申し出に乗った。
嘘をついてでも月代と一緒にいたいと望んでしまうのは何故だろう。

「あらら?保健室閉まってんだけど?
 上杉待ってて。俺、職員室行って鍵もらってくるから。」
いやだ。
置いていかれるのはいやだ。
「月代っ・・・」
思わず身体が動いた。
月代の背中にしがみついていた。
月代の匂いが体温が身体に染みてくる。
ああ、俺はこの塊が中身も外見も存在自体が好きだ。
「上杉?そんな具合悪かったのか?
 ちょっと、ごめん、ねえそこの人、
 悪いんだけど職員室に行って保健室の鍵取ってきてくれない?」
月代が誰かに声をかけている。
俺は月代の勘違いに甘えてそのまま縋っている。
「大丈夫か?今鍵、取りに行ってもらったから
 ちょっとだけ待とうな。もっと縋っていいからな。」
月代の不思議なトーンの優しい声が染みる。
ああ、俺は月代の声もすごく好きだなあと思う。
「あ、きたきた。」
ほどなくして鍵を受け取ったらしい月代が
俺の前にかがんだかと思うと俺を背におぶった。
そのまま保健室に入って俺をベットの上に寝かせる。
仰向けの俺の真上に被さるように月代がいて頭を枕に乗せてくれる。
ああさっきよりもっと近い。本当に頭を少し起こせばそれこそ唇同士が触れるだろう。 
「つき・・・しろ・・・」
「ん?」
俺を寝かせたことで離れようとしたその身体を戻して
俺の言葉を聞き取ろうとさらに顔を近づけて俺を見る。
黒目が大きく煌めいている吸い込まれそうな瞳だ。
「すまない。」
嘘をついて、こんな邪な感情を持って見てしまって。
「謝ることなんてないよ。」
乱れた前髪を整えてくれながらゆっくりと笑う。
同性だとか普通じゃないとかそういうのはもういいなと思う。

ああ、本当は気付いていたんだ。
俺は、月代とキスがしたいような好きなんだ。
それは、異性に感じる好きなのだろうけれど仕方ない。
だって、俺がそう思ってたまらなくなるのは同性であっても月代だけなのだ。

これは恋だ。
それもマイノリティだとかリノリティを超越している。
超越してでも好きだと強く感じずにいられないのならそれは最強の想いなのだろう。

認めよう。
俺は、月代に恋心を抱いている。
そしてその恋が報われることはきっとない。

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放課後になって屋上に向かうのか階段を昇る月代の後姿が目に入ったから
まだ昼の礼すら言ってなかったことを思い出して慌てて追いかけた。

まだ、何も言っていない。
同じクラスの隣の席だと言うのに。
目が合うと笑うだけで声を掛けようすればタイミングよくチャイムが鳴る。
休憩に入れば入ったで仲の良い古泉や水品と始終楽しそうに笑い転げている。
ひとりでいる月代を早く追って捕まえてお礼もだがいろんな話をしてみたかった。

あの後不思議に思ったのだ。
庇われたのは俺なのに月代が彼らと一緒に行ってしまったことが。
まるで俺を庇うようでいて彼らが悪者にならないように彼らを救ったのだ、月代は。

「つきしろっ」
誰も居ない屋上で影に腰掛けて音楽プレーヤーをいじっていた。
その手を止めて耳に入れていたイヤホンを外して俺を見上げる。
あのときの凄んだ表情が想像もつかないほど穏やかに柔らかく笑う。

「上杉だ。」
俺の名前を呼んで笑う。
「隣、いいか?」
「いいよ。ここ影で涼しいんだ。」
「本当だ。秋なのに今日は暑かったからちょうどいい。
「だね。」
当たり前のように返してくれる。
まるでいつもこうして待ち合わせているかの如く。
教室では隣の席だがそんなに話などしないのに。
「あの、さっき、昼はありがとう。」
「ああ、ごめんね。気にしないでやって。」
彼ら側で謝られるのは寂しい。
それは月代も彼ら側の目線で俺を見ているから?
「月代も?」
「え?」
「月代も彼らのように思う?俺を?」
「彼ら?もてていいなって?」
「違う。お高いとか見下しているとか。」
言っていて情けなくなる。
そんなふうにしか見られていないのか。
愛想なんていまさら振りまき方を忘れた俺を。
お高いどころか欠陥を取り繕おうとしているだけだ。

「見下してんの?」
明日も晴れる?みたいな軽い口調で月代が聞く。
「して・・・ない。けれどそう見えるなら俺にも問題がある、と、」
「ないない。」
「え?」
「言ったじゃん。妬んでるだけ。羨ましいんだよ上杉が。」
「けれど俺は、」
俺が笑って傷つけた人がいたのは事実で。
俺の存在が彼らは疎ましく思われているのも事実だ。
「かけっこで一等取ったのに二等の子に
 うらぁ!次は負けねーかんな!って言われないのは悲しいよな。」
「え?」
「そう言ってくれたら
 だが今回は俺の勝ちだぁ!って笑えるのに。」
月代が知りもしない俺の過去の傷跡を語っている。
「・・・そうだな。」
「ビリだった5等の子まで
 おらぁ!俺も眼中に入れやがれ!
 慢心してっと寝首かいてやっからな!
 なんて言い出すとめちゃめちゃ楽しいんだけどね。」
「ああ。」
「諦めて羨む方が簡単だから
 なかなかそうはならないんだけど、」
「うん。」
「だから羨むくらいは許してあげて。」
「・・・月代は彼らの立場でそう言うんだな。」
「え?俺?」
月代は羨まれる立場であるように思う。
きっとずっと俺なんかよりも気高くて強い。
俺は彼の勉学だけじゃない賢さが羨ましい。

「俺は羨まれるような人間じゃないから
 そう思われることが酷く不安定で受け止め方が解らない。」
「不思議で、じゃなくて、不安定で、なんだ?
 だからいつも一生懸命なんだ?
 答えようって。答えなきゃって?」
月代がふんわりと話す。
「そう・・なのかも・・しれない。
 そう、見えるか?」
「そうなんだろうって。
 それはとても重い感情の押し付けだよね。
 勝手に期待して憧れてるかと思えば別のやつには妬まれる。」
月代が手を差し出して俺の頭をなでた。
その行動には少し驚いたけれど
なでている月代の方があやすされたいような
迷子になった子供のような頼りない顔をしていて
好きにさせてあげたいなぐさめてあげたいと思ってしまった。

「月代・・・」
「うん。なに?」
「泣きそうな顔をしている。」
「あはは。うん。そうかも。」
「俺のせいで嫌な気にさせたなら謝る。ごめん。」
だから俺なんかのためにそんな悲しい顔しなくていい。
「上杉のせいじゃないよ。俺がつまんないこと思い出しただけ。」
「聞かせてくれないか?」
共有させてくれないか?
「ほんとつまんないことだよ。」
「構わない。」
聞きたいんだ。
知りたいんだ。
月代のことを。
「俺が憧れてた人のこと。」
「月代が?」
「うん。すっげぇ人で俺の憧れで目標だった人。
 それを毎日毎日感じさせられてしんどくなかったかなぁって。
 きっとしんどかったと思うんだけどそれでもずっと尊敬させ続けてくれた。」
「すごい、な。」
「うん。挫折してるとことかへこたれてるとことこ見たことなくって。
 ずっと俺の道しるべでずっと俺の前を歩いてた。
 俺はそれが当たり前だった思ってたんだけど。」
月代が俺を見てふふって困ったように笑った。
「上杉見てたら羨まれるそんざいってしんどいんだなって思って。
 俺はあの人にそういうしんどさ追わせたひとりだったのかもなって。」
「そんなことはないと、俺は思う。」
「上杉?」
「誰にも認められないなんてその方が寂しい。
 月代の存在がその人を奮い立たせていたのかもしれない。
 逆境にあったとしても月代の前だから挫けてはいられない、と。」
さっ月代自身が言ったのだ。
待ってろ追い抜いてやると言いながら追ってくれば笑えると。
妬んで嫉んでどうせおまえは俺とは違うからと言われたら笑えない。
「上杉・・・うん。そうだね。そうだといいなぁ。」
「すまない。よく知りもしないのに。」
「ううん。ありがと。
 誰でもなくあの人に近い立場の上杉がそう言ってくれると心強いよ。ありがと。」
俺は何もしていないのに礼を言われた。
「礼を言うのは俺の方だ。
 許すとか許さないとかじゃなくて
 何言われても嫌われても俺は構わないんだが
 ああいう時どう対処すればいいのか解らないから。
 月代にあの場で助けられたのは事実なのだから。」
「うん。」
「助かった。ありがとう。」
「うん。」
月代の憧れる人。
逢ったこともない人に思いを馳せる。
月代はああ言ってくれたけどきっと俺とは全然違う遠い人だ。
 
「月代、」
「なに?」 
「月代のあの人とは・・・」
「ああ、もうね、いないんだ。
 だから俺目標見失っちゃってさ、迷いながら転げまくりなの。」
そう言って笑う曇りのないちいさな顔をなぜか俺は抱きしめたくなった。

俺は月代に嫌われない人間でありたい。








1年の夏の終わり、学年委員の仕事にも慣れてきた頃、
生徒会室で学際についての資料を受け取った帰りの渡り廊下で
投げかけられている言葉が俺に向かっているものだと気付き足を止めた。

「おーこっちみたぜ。」
「やっぱ自分のことって自覚あんじゃねー?」

見覚えがないので他のクラスなのだろう。
ネクタイの色が青いので同学だと解る。

「いつもお高い上杉さんだよ。」
「確かに頭いーし優等生かもしんねーけど愛想ねーし面白味もねーし。」
「そうそ。なーんか俺はおまえ達と次元が違いますって態度とかさ。」
「何様?上様?上杉様?」
「女子に上様って呼ばれてその気になってんじゃね?」
「そういう態度、むかつく。」
「鼻につくんだよ。」

好きなことを言っている。

「俺は・・・」そんなつもりはない。
と言いかけて、そんなつもりはないけれど
今までに何度もそんな風に見られていたことを思い出す。
自分にそんなつもりはなくてもそう思われたら同じことだろう。

言葉が紡げない。

俺自身はあまり覚えていないけれど
兄が言っていたことをおぼろげに思い出す。
「葎はよく笑う子だったのにな。」よくそう言われる。
そうだったかもしれないが意識して笑わなくなった日がある。
「へらへら笑うなよ!おまえに蹴落とされたヤツが影で泣いてんだよ!」
学年順位が貼り出された日の昼休みに些細なことで笑っていたら胸倉を掴まれて言われた。
そばにいた友人は「そんなの言いがかりだ!上杉は今、成績順位のことで笑ってたわけじゃない!」
そう言ってかばってくれたけれど自分が笑うことで誰かを傷つけることがあると知って俺は愕然とした。
そして卒業の日「ああ言ったけど成績落ちて凹んでる時上杉を見るのはちょっと鬱だった時期もあったよ。」
と、あのときかばってくれた友人が言った。「ただの責任転嫁で妬みなんだけけどな。」彼は笑って言った。

ああ。俺が笑うと人が傷つく。
その気が無くても友人は傷ついていた。

「な~に?」
「言いかけてなんも言わねーの?」
「つか図星で言えねぇんじゃねぇ?」
「どんだけ人見下してんだか。」
「つかそういうとこもむかつく、きれぇ。」

「俺はおまえらのほうが嫌ぇ。」

「・・・うわ、月代だ。何?」
「っだよ。なんでこんなの庇うわけ?」

「庇ってない。
 おまえらが嫌いなだけ。
 嫌いとか言いながらその相手に愛想なんか要求してんじゃねぇよ。」

「なんなの?月代いつもとキャラ違くね?むきになんなよ?」
「冗談じゃん。マジで怒るなよ。」
確かに普段の月代には見られない凄みで睨んでいる。
その表情にいつもの気の抜けたような笑みは微塵もない。

「じゃあ八つ当たりすんな。謝れ!
 俺は今、腹が減って異常にむかついてんだ!」

「「そっちのが完全な八つ当たりじゃん!」」

「いんだよ俺は!
 どうすんの?謝んの?
 それともその前に拳で話し合う?」

「上杉より嫌なやつだな。
 我が侭過ぎるんだけど。
 拳じゃ話し合うとかねぇし。」
「ったく解ったよ・・・ぶっそうなこと言うなよ。」

「上杉、悪い。」
「ごめん。言いすぎた。」
「ってことだから勘弁してやって。
 こいつら悪気しかないんだよ。
 上杉ばっかもてもてでひがんでるもんだから
 真っ直ぐに悪意の気持ちを伝えたかっただけなんだ。」

突然の月代の登場に
突然の彼らの謝罪に
頭がついていけなくてコクコクと頷く。

「なんだよその言い方。酷くねぇ?」
「まんまじゃん。」
「まんまって・・・もっと言い方があんじゃん。」
「上杉に嫌われたら女子にも嫌われるぞ。
 好きなもん嫌いだっていうやつは嫌いだろ?」
月代はさっき嫌いと言い放った彼らの首に
ぶらさがるように腕を回して顔を近づけて話している。
彼らもさっきまで威嚇していたことを忘れたように砕けた表情。
「あ~・・・。」
「まあ・・・。」
「な!もてない要素増やしてどうする?」
「あのなぁ。俺らそこまでもてなくないぞ。」
「まあ、でもここじゃ女子と接点少ないしな。」
「そこで学際であり生徒会があるわけだ。」
「おお!忘れてた」
「来月じゃん!月代のクラス何すんの?」
「たこ焼き。そっちは?」
「え~と・・・なんだっけ?」
「俺らはお化け屋敷。」
「うわぁ。カップルしか来なさそう。」
「絶望だ・・・」
「ガッカリじゃねぇか・・・」
なにやら打ち解けて笑い合う月代たちの後姿を見ていた。
あの殺伐とした空気はいったいどこにいったのか楽しそうな後姿だった。 
 
「ああもう仕方ないなぁ。
 学際でたこ焼きおごってやるから元気出せ。
 たこ焼きは万人に愛される食べもんだから
 たこ焼きをしこたま食う女子と仲良くなれるかもだぞ!」
「そんなにたこ焼きばっか食ってる女子はやだよ俺・・・」
「俺はそんな女子でもいい。出逢いたい。」
「ほら田村!村田はこんなに前向きだぞ!」
ああ、彼らの名前はそういう名前なのかと
離れていく声に耳を傾けていたら
「俺は田村じゃねぇ!」
「俺も村田じゃねぇ!」
と返していたので思わず笑ってしまった。

怒らせることで人を笑わせるだなんて、なんて素晴らしい才能だろう。
だってこの場に生まれただろう被害者も加害者もいなくなってしまった。

入学してから、時は飛ぶように過ぎた。
全くと言っていいほど何もかも初めての世界に
戸惑いながら慣れながら必死で毎日を生きた。
広夢様は最初の10日間だけ寮の同部屋にいてくれて
その10日間だけ同じ科目を隣の席で受講しながら登下校も一緒してくれた。
でも、その10日間が過ぎると突如今までの生活なんかなかったように突き放した。

俺はひとりになった。

と思ったけれど広夢様はやはり目を惹く人だったから
10日間つきっきりでいた俺への注目はピークを達していたらしく
自然にぱらぱらと人が寄って来ては同じ質問を繰り返し受けた。

「あの人とどういう関係?」
「あの人とどうして同じ苗字なの?」
「あの人ってどういう人?」

俺は俺のことなんか何にも話せないけれど
広夢様のことなら、広夢様の魅力についてなら幾らでも話せた。
広夢様について話す俺の言葉は魔法の言葉となってそれを機に
クラスメイトにも広夢様に代わって相部屋になった人とも気さくに話せるようになった。

「なあ、なんで10日間だけ入れ替わったんだ?
 俺、寮長から10日間だけ代われって言われて従ったんだけど。」
相部屋のルームメイトは瀬名と言った。
サッカー部で日に焼けた肌の白い歯が綺麗なオトコだ。
ぶっきらぼうな物言いだけど悪意がなくて率直なので話しやすい。
「俺は世間にうといし、初めての海外でいきなり学校だったから
 たぶん、10日間、慣れるまでそばにいてくれたんだと、思う。」
「なんで10日間?
 もっと一緒にいればいいじゃん。
 仲いいんだろ?学年もおなじだろ?」
「・・・ずっと一緒だと俺は変らない・・からかな。
 きっとヒロム・・・さんに頼ってしまうから。」
同級生で様なんておかしいでしょ。呼び捨てで呼ぶこと。
と言われた俺が必死で譲歩した呼び方で呼ぶけどそれでも瀬名は不思議な顔をする。
「それと、なんでさん、付け?
 苗字も同じだし、でも似てないし、親戚か?」
「そんな、ところ。
 俺はあの人に恩が、とても返せないだろう大きな恩があるから。」
「ふうん。
 ちょっと冷たい感じに見えたけどいい人なんだ?」
「うん。とても。綺麗で優しい人だよ。」
「おまえすっごいそのヒロムって人のこと好きなのな。」
「うん。好きだと思うのがおこがましいくらい好きで尊敬してる。」
「で、その10日間以来も仲良くしてんの?
 俺、割とサイと一緒にいるけど話したりしてんの見たことないし。」
「ううん。
 10日間過ぎてから一度も話してないよ。」
「マジで?もう夏だぞ。
 入学して半年過ぎてんぞ。」
「うん。」
「寂しくねぇの?
 つかそれどういう関係だよ?」
「寂しい・・けど仕方がないんだ。
 俺が構いたくなるような魅力がないから。」
「はあ?意味解んねー関係だな。
 面倒見が良いのか悪いのか、優しいのか冷たいのか解んねぇな。」
「優しいよ。俺が強くなるために冷たいんだ。」
「ふうん。
 ・・・俺はサイが自分で思ってるほどダメな人間じゃないと思うけど。」
「ありがとう。
 でもまだまだなんだ。
 もっとずっと頑張らなくっちゃ。」
「ま、そういう気持ちって大事だよな。
 俺もサッカーそこそこできるほうだったのに
 ここじゃベンチにも入れてもらえない有様だしな。
 お互い自分を高めるために頑張って努力しようぜ!」
「うん。」
瀬名が同部屋のルームメイトでよかったなぁって思う。

なりふり構わずに頑張ると時間はすぐに過ぎる。
勉強に励むと言うのは数字で結果が出るから達成感がある。

「彩、外出許可取ってあるからディナーに行こう。」
教室を出たところに広夢さんが待っていてそう言った。
ようやく成績が上位に入り始めた頃の落ち葉の舞い散る秋だった。

リムジンで乗り付けたホテルの一室で
制服から広夢さんが用意した正装に着替える。
高層階にあるシャンデリアが掛かった広い部屋。
さらに高層階にある静かで煌びやかな最上階の店に入る。
予約がされていたようで奥の他人の目が気にならない個室のような席に通される。

広夢さんの身のこなしは相変わらず優雅で手馴れていて
久々に近くで見れたその物腰や綺麗な顔や髪に俺は見惚れる。
「なあに?俺の顔になにかついてる?」
「いえ。お久しぶりだなと思いまして。」
「ああ、そうだね。久しぶり。
 今回の成績見たよ。頑張ったね。」
広夢様のすらりとした手が俺の頭に伸びる。
日本で言うところの(ここだと4期性)高校1年にもなって
それ以前に俺は20歳を回った年齢ではあるのだけれど
おかしな光景なのかもしれないけれど俺は広夢さんに撫でられると嬉しい。
「ありがとうございます。」
「ふふ。なんだか少し背筋が伸びたみたい。
 いい資質持ってたのかもしれないね。彩。」
「資質・・・ですか?」
「うん。俺のサポートできるだけの資質。
 ちょっと魅力的になった彩に、乾杯。」
そそがれたシャンパンのグラスを持ち上げる。
俺も同じように持ち上げあげて同じように飲んだ。
酸っぱいような辛さが広がるのに飲み干すとどこか甘くて
キラキラした炭酸がグラスの中で踊るのが綺麗で爽やか。
広夢さんみたいだ。
馴れないアルコールが入っているせいで頬が熱くなるのが解る。
うっとりとしながら順番に運ばれてくるどれも美味しい料理を口に運ぶ。
目の前に広夢さんがいる。それだけで夢のようなのに夢のような場所に
アルコールに料理にキラキラしたシャンデリア、窓の外に広がる夜景。
「夢、みたい、です。」
「なにが?」
「広夢さんといれることが。」
場所より何より俺はあなたといたかったから。
「そう。」
ふっと笑う。
ああ、懐かしいな。
「こんな豪華な場所なのに
 初めてラーメンを食べたあの場所を思い出します。」
「ふふっ。個室だからかな。
 彩らしい感想でなにより。
 なあに?相変わらず人の目は苦手?」
「好きではないですがあまり気になりません。」
「ふふっ。そうでなくちゃここまで来た意味はないよ。」
「はい。」
「彩、」
「はい。」
「あと1年だ。」
「あと1年?」
「俺はね来年飛び級で3年になる。」
「え?」
「だからあと1年。
 俺とここで学ぶのはあと1年だよ。」
「あと1年・・・・」
「そう。捨てられたくなかったら、
 自由になりたくなかったら、
 俺を必死で追っておいで。」
「はい。」
ああ、どこまでも遠くへ跳んでいく
ああ、どこまでも速く高く飛び立っていく
この俺の神様はどこまでも気高く美しい
俺はまだその背を追ってもいいと言うのなら
俺はまだあきらめないでもがいて追いたい。
「はい。」
もう一度決意を込めて言うと
「おいで。」
と食事を終えたテーブルから手を引かれた。

赤い色の間接照明が灯る部屋。
俺はアルコールの熱に浮かされるまま広いベットに座る。
きっちり締められたネクタイがきつく感じる。
そのネクタイに広夢さんの手が掛かったかと思えば
そのネクタイを引っ張られてあごが上がる。
唇にとても懐かしくて愛しくて恋焦がれた久々の熱が降る。
「広夢・・・さ・・・まっ・・・」
「さん、でしょ?」
「んっ・・ふっ・・・」
熱が深みを帯びる。
アルコールにしびれた舌が広夢さんの舌に絡めとられる。
熱い苦しい愛しい嬉しい気持ちいい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい。
目のふちに涙がたまるのが解る。だってまたキスしてもらえると思わなかった。
「なあに?
 泣くほどいやなの?」
「ちがっ・・・泣くほど
 胸が痛いほど嬉しいです。」
「そう、ならいいよ。」
もう一度深いキス。
これは何のキスですか?
成績を上げたご褒美のキス?
よく頑張りましたのご褒美のキス?
それとも俺にだけくれるトクベツなキス?
「ひろ・・むさ・・・ま」
「さん。」
「ひろむさん、おれ、おれ・・・」
「なあに?」
「うっ・・えっ・・えっ・・・おれっ」
「泣き虫は相変わらずなんだ。」
「俺・・・俺は貴方が好きです。
 広夢さんがどうしようもなく好きなんです。」
「知ってるよ。」
広夢さんが意地悪そうに言う。
「わざわざそんなことを言うなんて
 彩、おまえは俺に何を期待して言うの?」
「期待・・・俺は・・・貴方の役に立ちたいんです。
 いままでずっと話すこともできなくて辛くて
 俺は役立たずで無力な自分が悔しいばかりで・・・」
「キスされたから欲が出たの?」
「まだ、俺にキスしてくれるのはなぜですか?」
「ああ、それが聞きたかったんだ?」
「はい。俺なんかに、」
もう、魅力がないと見切られたはずだったのに。
「頑張ったからだよ。」
「ありがとうございます。」
やはりご褒美をくれたのだ。
「それと、
 少しだけ魅力を感じたからね。」
「え?」
誰が誰に?広夢さんが俺に?
「気が向いたら抱いてみようと思ったけど
 相変わらず泣いてるから今日はやめとく。」
「どうして・・・広夢さん・・・俺・・・」
ぐぐっと涙を堪えるように口をへの字に結んだら
ふふっと広夢さんは笑って
「いやがって抵抗して泣くのならおもしろそうだけど
 嬉し泣きしてるようなのをいきなり抱くのはつまらない。」
以前嫌がって泣いていたときも抱かなかったのに
どのみち俺を抱く気がないんだと寂しくも気付く。
あの時の俺は本当にそういうことに無知で恥ずかしがったけど
今はいろんなことを知ってる。寮でも男同士で愛し合ってる人もいる。
たとえ広夢さんが俺にそういう行為を行っていてもそれは愛じゃないけど。
「広夢さんの愛する人なんて俺には想像もつきません。」
「そう?普通の魅力的な人だよ。」
「いまどうしてるんだろう?って思いませんか?」
俺は思った。
最初の10日間以降今日までずっと。
広夢さんはどんな風に過ごしてるんだろうって。
広夢さんに抱かれるのってどんなんだろうって。
「そりゃねぇ。
 でも、やっとどこで何してるのか突き止めたから。
 だから俺は飛び級して留学して逢いに行くことにしたんだよ。」
ああ、飛び級の理由はそれだったんですね。
ああ、追いつける羽なんて初めからなかったんだ。
「逢ったらどうするんですか?」  
「今日はやけにしつこく聞いてくるんだね。
 酔ってるの?まあいいや。聞かせたい位だし。
 今度こそ掴んで捉えて絶対に離さないしどこにもやらない。
 俺だけのものにして俺だけの秘密の箱に閉じ込めて一生愛すよ。」

広夢さんの秘密の箱に閉じこもって一生愛される。
どれだけ俺の望む理想の場所なんだろう。
俺の分際でありながら羨ましくて泣きそう。

広夢様がなにをしたのか
どうして俺にあんなことをしたのか
あの行為がそもそもどういう意味を持つのか
結局何も解らないままいつもの生活を続けた。

ただ広夢様は怒っていた。
何で?
「あんまり目障りなことしてると
 これ以上の痛い目見ることになるよ。」
何に?
「なんでいっつもここに来るの?」
広夢様を追ってまたあの部屋に入ったことに、だろう。
そうだ。だから怒っていたんだ。怒ったからお仕置きをした。
ああ、あの行為は、広夢様を怒らせたことによるお仕置きだったんだ。

殴られもしないお仕置き。
熱くて苦しくて息があがるくらい感じてしまうキス。
広夢様に触られて気持ちよくて放ってしまった俺の熱。
変なところを触られてしまったけれどそれすらお仕置きとは思えなかった。
むしろ今思い返せば俺ばかり感じさせられて熱を放って気持ちよかったんじゃないか?

色んな感情と熱に浮かされてわけも解らず泣いてしまったけど
恥ずかしいのと広夢様を汚しているような背徳心苛まれただけで
その行為自体に俺は傷つけられたわけでも辛く感じたわけでもない。

そう、むしろ。
俺を求めているような
体中を愛してくれているような
愛撫や、キスや、広夢様の熱が嬉しくて心が震えていた。
けれどそんなのマヤカシだから解らなくなって混乱したんだ。

あれから広夢様はあんなことはなかったかのように振舞っている。
広夢様からしたらただのお仕置きなんだから俺の罪があってお仕置きして終わり。
その先になんの進展も発展もない完結したこととして受理されたということなのだろう。

でも、俺の熱は冷めない。
いちどあんなふうに触られたらもっと、と思ってしまう。
だからたぶん怒らせるのを解ってるくせにこんなことを言ってしまうんだ。

「広夢様。」
「なあに。」
「あの部屋・・・あの部屋は、何なんですか?」
「ソレ聞いてどうするの?」
案の定、一変、不機嫌な表情と声が返って来る。
「あの部屋での広夢様はいつもと違う、から。
 違うように見えた、から。」
「ダカラ?
 俺の質問の答えになってないんだけど?」
「なにか・・・広夢様にとって辛いことがあるなら」
「あるなら?」
「俺になにかできることがあるなら、俺」
「なに?」
「俺ならなにされても傷つかないから
 痛いのも平気だしだから俺は・・・俺は」
「なにが言いたいの?」
「俺は広夢様に笑って欲しい・・です。」
ぎゅっと目を閉じて告げる。
俺に辛く当たっているようで
いつも辛そうに見えるのは広夢様だ。

ああ、そうだ。そういうことなんだ。そうなんだ。
あの行為の最中も広夢様が楽しそうならよかったんだ。
広夢様はお仕置きのつもりながら俺をよがらせてるのに
広夢様自身は気持ちよくもなければ楽しそうでもなかった。
だから俺は広夢様に何をされてもいいのに泣いてしまったんだ。
そんな辛い顔して俺の汚い身体を探る美しい人が悲しかったんだ。

「彩に言われなくても笑いたきゃ笑ってる。」
「そう、です、よ・・ね。」
「なんでもとか言いながらあのときおまえは泣いてたじゃない。」
「それは、」
「なに?」
「広夢様が泣いてるように見えたんです。」
「俺が?」
「俺なんかにこんなことしたくないのに
 無理やりさせられてるみたいに辛そうだったから」
「ただのバカだと思ってたけど
 いろいろ考えてるのは褒めてあげる。」
「広夢様・・・」
「と同じだけ勝手な憶測されるのはむかつくから
 教えてあげる。」
「はい、広夢様。」
「あの部屋はね俺の大好きな人と愛を育んだ
 大事な思い出の部屋なんだよ。」
「愛?」
「おまえとはできないこと。」
「俺とは?俺・・・」
「知らずに言ってるの?
 まあ、こないだもそんな感じだったっけ。
 男同士は直腸で愛し合うんだよ。
 肛門に性器を挿入しあうって言えば解る?」
脳裏にあの時の行為を思い描いて
あんなところを触られていた違和感の意味を知る。
「馴らそうとしたんだけど、途中で面倒くさくなっちゃったわけ。」
そんな俺の思考を読んだ様に広夢様は続けた。
つまり広夢様は俺を愛そうとしたってことなのか?
そんなことがあるわけないとあの時の広夢様の表情で打ち消す。
「俺は馴らさなくても、平気です。」
痛かったのは覚えている。
痛くされても俺はいいんだ。
切れて裂けて死に掛けたって。
「相変わらず短絡的で利己的で偏った思考してるね。
 俺がキツいんだよ。そもそもそこに愛はない。」
「あ、」
「自分で馴らして自ら俺の生処理のために
 動いてくれるってんならありがたいかもね。」
  
ずっと探していたんだ。
俺なんかが広夢様のためにできることを。
最初から広夢様は言っていたじゃないか。
「オトコ相手に性欲わくかの実験台くらいにしかなんねぇよなあ」
あれはこういう意味だった。俺はそのためにキスしてもらえたのだ。

「でき・・・ます。」
広夢様は軽く目を見開いて笑った。
「殊勝なことを言うね。
 どうする行為かも今知ったくせに。」
「お・・覚えます。俺は・・・」
「俺はおまえに魅力を感じないから結構だと断ったら?
 俺結構もてるし、実際そっちでは不自由してないんだよね。」
「でも、俺に、俺に・・」
「あれはお仕置きだよ。
 ついでに俺も生処理したかっただけ。
 残念ながら途中で萎えちゃったけどね。」
「俺はなにをすればいいですか?
 どうしたら広夢様のお役に立てますか?」
「先ずは俺が抱きたいって思うような人間におなり。
 これも最初に言ったけれど結局は俺の気分次第なの。」
俺が広夢様が欲しいと、抱きたいと、思われるような人間に?
なれるわけがない。
なれるわけがないじゃないか。
俺なんか誰からも愛されたことがないのに。
ましてや神様みたいな始めて好きになった人なんかに。
「バカなことばかり言ってすみませんでした。」
「彩?」
「俺、部屋にもどります。
 もっともっと勉強しないと・・・」
「そう。いい心がけだね。」

気休めだと解ってるけれど
広夢様が俺に対して前向きな言葉をかけてくれると
ああ、そばにいさせてもらえるだけがんばれるなって思う。

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BrownBetty 
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