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球技大会の結果はまずまずだった。
テニスは3回戦で負けてしまったけれど
そのときの応援席には月代達がいて盛大な拍手をくれた。
「全試合応援して観てました。」と女子にタオルを渡された。
サッカーでの月代に渡せなかった女子を少しだけ思い出した。

サッカーは次の試合で負けてしまったらしく
観ていたらしい生徒会の面々が噂をしていた。
「どうして後半から活躍した彼がいなかったの?」
月代のことを言っているのだろう「彼は代役をだったらしいよ。」と対戦したらしい者が答えると
「でもサッカー部じゃないんでしょ?なんでサッカー選ばなかったんだろう」それでも彼女は首を傾げていた。

なんのことはない。
彼らは仲がいいからだ。
水品にあえて振り回されているような月代。
水品は月代にとってトクベツのような気がする。

その彼らの出場した野球は、優勝していた。
だから総合優勝は逃したものの優勝旗は1つ取れたことになる。

俺も観ていた。
「うむうむ万能だな。」
佐原が眼鏡を指の腹でくっと上げながら言った。
「ああ。」
ピッチャーは自由交代なのでピンチになると
月代や水品が代わって投げてしのいでいた。
月代は速いストレートとカーブ。
水品はもっと速いストレート。
月代は緩急をつけた丁寧で正確な球を投げる。
水品は速いがコントロールが定まり辛い。
メインの投手は生田で乱れのない安定した投球をしていたから
ピンチになってマウンドにあがるこの2人に相手チームは崩れていった。

「投げてよし、打ってよしだぞ。」
「ああ、すごい。」
月代の3塁打、水品のスーパーキャッチ、生田の正確なバントに盗塁。
他の面々も触発されてか終盤戦にはほどんど選手が塁を進めていた。

「苦手な競技があるのか聞いてみたいところだな。」
「あるだろうか?」
「月代に至ってはあれで首席とは恐れ入る。
 まあ、今は上杉の方が成績は上だがな。」
「たまたまだ。彼ならいつでも俺なんか抜ける。」
「ほう。意外と上杉は月代をかっているのだな。」
「佐原も水品も生田もそれぞれがすごいと思う。」
「これはこれは恐縮だ。
 ときに上杉、俺は思うのだが、」
「なんだ?」
「先日言っていた上杉の想い人は、
 月代ではないのか?」

背中にひとつ冷たい汗が流れた。



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驚いた。
入学直後の運動測定で運動神経がいいのだろうとは
予想がついていたのだけれどこれほどまでとは思わなかった。

「マジかよ月代・・・」
「まぐれだろまぐれ!」
サッカー部の生田と水品が話している。
それもそのはずクラス対抗の球技大会。
部に入っているものは部とは別の種目を選ぶことになっている。
よって、水品と生田はサッカーではなく野球球技を選択していた。
月代は水品に強制的に野球に引き込まれたらしく野球だけだったはずなのだが、
負傷で交代となった磯山の代わりにサッカーにまで出場していた。これも水品の推薦らしい。

その月代がひとりで3点を決めているのだから
水品と生田のつぶやきも納得だ。

「うまいとは思ってたけどなぁ。」
「あいつとはいっつも同じチームやってるし、俺。
 やりやすいっつーか組みやすいとは思ってたけど。」
「なんで部活しないんだろう?」
「はっ!知らねぇよ!
 宝の持ち腐れっつってやったら
 豚に真珠だって返されたぜ!なんなんだよな!」
「あ~俺いますぐあん中入って月代とヤりたい・・・」
「同感!なんでサッカー部がサッカーやったらダメなんだよ!」
「運動部やってるクラスが有利になるからだよ。」
「知ってんよ!バカにすんな!そうじゃねぇよ!
 月代がサッカーで活躍してんのがムカつくんだよ!」
「なんでよ?つっきーかっこいいじゃん?
 同じクラスなんだぞ応援しろよ!」
「してんよ!くそ!キャーキャー煩ぇな!」
「ああ、女子が騒いでるのがくやしいのか。」
「悪いか!俺だってあれくらいなっ!」
「野球で目立てばいいじゃん。目立てるならね。」
「うっせ。そういう生田は目立てるんだろうな!」
「俺はどうか解らないけど悪目立ちしそうだよね水品は。」
「ふん!うらぁ!月代!右だ右!コースあんぞぉ!打てぇ!!!」

なんだかんだで彼らは仲がいい。
文句を言っている様でそれは賞賛で応援なのだ。
俺はサッカーのことはよく解らないけれど月代の動きが
圧倒的に目立つし隙もミスもなくひとり格が違うのが解る。
一度見入るとその動きから姿から目が離せないほどに眩しい。

授業形態はまだまだ男子校女子校の隔たりが残る学園も
大きなイベントでは合同に参加をし始めているため女子も当然いる。
なるほど。目立つ活躍を魅せ付ける月代に目を留めない者はいないだろう。
少し歩くと近くの女子が「あの人誰?なんて言うの?」とクラスメイトに尋ねていた。
俺は学年委員や生徒会によって合同イベントの運営に携わっているから女子との交流は多い。
だから目に付くのだろうしだからよく告白などを受けるけれど俺の何を好きだと言うのか解らない。
こういう月代を見たなら一目惚れをしたと月代が言われても納得が行くしそう言えるのを羨ましく思う。

「うわ!4点目入れやがった!」
「ははは、容赦ないね。
 つっきーすごいなーかっこいいなー。
 つっきー!がんばれー!もう一点!もう一点!」
「2組の守備がザルなんだよ!
 くっそ月代目立ちやがって!
 もーめだたなくていーっつーの!」
「はいはい。つっきーが遠い人になって行くのが寂しいんでしょ水品?」
そこに古泉も加わった。
「おー古泉、バスケどうだった?」
「ふん。煩ぇ古泉。勝ったのかよ?」
「まあ、負けました。」
「あら~残念。」
「ふん。だっせぇ!」
「俺、バスケ向いてないと思うんだけどなぁ。
 おお~つっきー頑張ってるね。すごい点差だわ。」
「古泉は背が高いからバスケってなっちゃうんだよ。
 俺も背欲しいよ。サッカーも長身のが絶対有利だし。」
「あの4点全部あの月代が入れたんだぜ!どうよ!」
「なんで水品が得意になってんのよ。
 でも、そうなんだすごいねつっきー。かっこいいわ。」
「だよな!だよな!かっこいいよ!」
「ふん。俺が出てりゃ10点はいってるぜ!」
「つっきーと組んで、でしょ。」
「俺も入れろよ。」
「なんでサッカー部がサッカー選んじゃいけねぇんだ・・・」
「言うと思った。」
「さっきも言ってたよ。」
「煩ぇ。あっ・・・」

試合が終わったのだろう。
終了の笛が鳴った瞬間に水品がグラウンドへ向かって走り出した。
相手チームと挨拶しているのにも構わず月代へ飛びついて顔を掌でぐりぐりしている。
よく見るとスポーツタオルを手に近寄ってもじもじと月代を見ている女子の姿が目に入る。
しかし水品の勢いに押されてか賑やかに引き上げていく月代に渡すタイミングを逃していた。

少し、ほっとした。
たちまち、そんな自分に嫌気がさした。

試合結果を書き込んだバインダーを手に集計所へ向かう。
ちょうどバスケを担当していた佐原がやはりバインダーを手に現れた。
「バスケは負けだった。惜しかったがな。」
「そうか。サッカーは勝ちだった。」
「ああ、女子が騒いでいたから存じている。
 なんでも月代が大活躍だったそうだが、
 月代はサッカーだったか?」
「否、怪我人が出て代わりに月代が入った。
 入ったというより水品に無理やりグラウンドへ入れられていたな。」
「そうか。あいつららしいな。
 それで、怪我人の具合は?」
「ああ。接触で磯山の鼻血が止まらなかったらしい。
 もう大丈夫そうだ。」
「大事に至らなくてなによりだな。」
「ああ。」
「次は・・・野球か。
 その後すぐサッカーか。月代も大変だな。
 ああ、でも次は鼻血の磯山は出場可能か。」
「だと思う。」
「上杉はテニスだったか?試合はいつだ?
 俺はバスケで負けてきたからもう出番はない。
 引き継げる仕事があるようなら引き受けるぞ。」
「ああ、俺はこの後に行く。フルじゃないからすぐ終わるだろう。」
「そうか、では俺は気楽に野球の応援に行って来るよ。」
「ああ。」
もうすぐ始まるテニスのコートへ向かう。
クラスから3名ずつの競技なので応援に来るものは少ないだろう。
着替えてコートで相手チームを礼をかわしていたら応援席に月代達がいた。
野球は?と思って時計を見たら、気付いたらしい月代が口パクで何か言っていた。

ま、え、の、し、あ、い、が、え、ん、ちょー、

ああ。
それにしてもいつ終わるかも解らないのにこんなところにいてもいいのだろうか。
そう思ったけれど団体競技でないひとりでコートに立つ競技に応援があるのは嬉しい。
見れば女子が多いのかギャラリーは賑やかで俺を応援する声まで聞こえて来た。

なんとなくテニスは剣道に似ている気がして選んだ。
剣道は長年やっている見に染み付いた武術で、
相手の隙を付くスポーツであるテニスがいいと思った。
油断なく緊張を持って緩急を加えながら狙いを一気に突く。
うん。似ている。

そこそこの健闘はできただろう。

チェンジコートのタイミングで迎えが来たらしく
「うーえーすーぎーふぁいおー!」
と月代が口に手でメガホンを作って笑った。
生田は次の出番の五条にやはり応援らしき言葉を掛けていた。

「ああ。」
見てて欲しいと思ったし
観にいきたいと思ったけれど
まだ決勝までは何戦かあるのだ。
そこまで一緒に勝ち進めるよう力を尽くそう。

本当は気付いていたのだろう。
気付いていたけれど気付かないふりをしていた。
気付いていたけれどそんなことあるわけがないと否定していた。

だってまさかそんなこと考えたことがなかったから。

『ついに認める』

廊下でプリントを見ながら歩いていたら
注意が散漫になってしまって目の前の人物にぶつかってしまった。
そのままプリントを散り落としながら仰向けにしりもちをついてしまう。
「大丈夫?」
「すまない、」
ぶつかったのは月代だった。
俺が落としたプリントを手早く集めて俺に向いて膝と手をついている。
それは俺に覆うような体制にあるために顔がとても近くにあって驚く。
---------キスしてしまう。
そんなはずはないのにそう思ってドキドキした。
月代はなんでもないようにそのまま膝を立てて俺に手を差し出した。
勿論その手はキスをするために差し出されたものじゃなく俺を立たせるためだ。
「怪我してない?どっか痛くない?」
「大丈夫だ。月代こそ・・・」
「俺は大丈夫、なんともない。
 はい、プリント。たぶんこれで全部あると思う。」
と周りを見渡しながら差し出される。
俺が呆けている間に全部拾ってくれたらしい。
「すまない、ありがとう。」
「いやいや。
 疲れたまってんじゃない?
 あんまり無理すんなよ?」
そう言って首を傾げると「じゃあ」と去っていく。
それがなんだか無性に寂しく感じられて思わず月代の服の裾をつかんでしまった。
行きかけた月代の身体がくいっと止められて月代が不思議な顔つきで振り返った。
「あ・・・」
「ん?」
「すまない。」
「いいけど、どうした?」
「あの・・・」
どうしたと言われても俺自身が解らない。
もうちょっと一緒にいたいとか言うと可笑しいだろう。
だいたい離れる月代の背中をどうして寂しく思ったのか。
「上杉?」
「・・・・うん・・・その・・・」
「具合でも悪い?
 保健室付き合おうか?」
「頼んでもいいか?」
「いいよ。行こう。」
言葉が上手く紡げなかったから月代の申し出に乗った。
嘘をついてでも月代と一緒にいたいと望んでしまうのは何故だろう。

「あらら?保健室閉まってんだけど?
 上杉待ってて。俺、職員室行って鍵もらってくるから。」
いやだ。
置いていかれるのはいやだ。
「月代っ・・・」
思わず身体が動いた。
月代の背中にしがみついていた。
月代の匂いが体温が身体に染みてくる。
ああ、俺はこの塊が中身も外見も存在自体が好きだ。
「上杉?そんな具合悪かったのか?
 ちょっと、ごめん、ねえそこの人、
 悪いんだけど職員室に行って保健室の鍵取ってきてくれない?」
月代が誰かに声をかけている。
俺は月代の勘違いに甘えてそのまま縋っている。
「大丈夫か?今鍵、取りに行ってもらったから
 ちょっとだけ待とうな。もっと縋っていいからな。」
月代の不思議なトーンの優しい声が染みる。
ああ、俺は月代の声もすごく好きだなあと思う。
「あ、きたきた。」
ほどなくして鍵を受け取ったらしい月代が
俺の前にかがんだかと思うと俺を背におぶった。
そのまま保健室に入って俺をベットの上に寝かせる。
仰向けの俺の真上に被さるように月代がいて頭を枕に乗せてくれる。
ああさっきよりもっと近い。本当に頭を少し起こせばそれこそ唇同士が触れるだろう。 
「つき・・・しろ・・・」
「ん?」
俺を寝かせたことで離れようとしたその身体を戻して
俺の言葉を聞き取ろうとさらに顔を近づけて俺を見る。
黒目が大きく煌めいている吸い込まれそうな瞳だ。
「すまない。」
嘘をついて、こんな邪な感情を持って見てしまって。
「謝ることなんてないよ。」
乱れた前髪を整えてくれながらゆっくりと笑う。
同性だとか普通じゃないとかそういうのはもういいなと思う。

ああ、本当は気付いていたんだ。
俺は、月代とキスがしたいような好きなんだ。
それは、異性に感じる好きなのだろうけれど仕方ない。
だって、俺がそう思ってたまらなくなるのは同性であっても月代だけなのだ。

これは恋だ。
それもマイノリティだとかリノリティを超越している。
超越してでも好きだと強く感じずにいられないのならそれは最強の想いなのだろう。

認めよう。
俺は、月代に恋心を抱いている。
そしてその恋が報われることはきっとない。

放課後になって屋上に向かうのか階段を昇る月代の後姿が目に入ったから
まだ昼の礼すら言ってなかったことを思い出して慌てて追いかけた。

まだ、何も言っていない。
同じクラスの隣の席だと言うのに。
目が合うと笑うだけで声を掛けようすればタイミングよくチャイムが鳴る。
休憩に入れば入ったで仲の良い古泉や水品と始終楽しそうに笑い転げている。
ひとりでいる月代を早く追って捕まえてお礼もだがいろんな話をしてみたかった。

あの後不思議に思ったのだ。
庇われたのは俺なのに月代が彼らと一緒に行ってしまったことが。
まるで俺を庇うようでいて彼らが悪者にならないように彼らを救ったのだ、月代は。

「つきしろっ」
誰も居ない屋上で影に腰掛けて音楽プレーヤーをいじっていた。
その手を止めて耳に入れていたイヤホンを外して俺を見上げる。
あのときの凄んだ表情が想像もつかないほど穏やかに柔らかく笑う。

「上杉だ。」
俺の名前を呼んで笑う。
「隣、いいか?」
「いいよ。ここ影で涼しいんだ。」
「本当だ。秋なのに今日は暑かったからちょうどいい。
「だね。」
当たり前のように返してくれる。
まるでいつもこうして待ち合わせているかの如く。
教室では隣の席だがそんなに話などしないのに。
「あの、さっき、昼はありがとう。」
「ああ、ごめんね。気にしないでやって。」
彼ら側で謝られるのは寂しい。
それは月代も彼ら側の目線で俺を見ているから?
「月代も?」
「え?」
「月代も彼らのように思う?俺を?」
「彼ら?もてていいなって?」
「違う。お高いとか見下しているとか。」
言っていて情けなくなる。
そんなふうにしか見られていないのか。
愛想なんていまさら振りまき方を忘れた俺を。
お高いどころか欠陥を取り繕おうとしているだけだ。

「見下してんの?」
明日も晴れる?みたいな軽い口調で月代が聞く。
「して・・・ない。けれどそう見えるなら俺にも問題がある、と、」
「ないない。」
「え?」
「言ったじゃん。妬んでるだけ。羨ましいんだよ上杉が。」
「けれど俺は、」
俺が笑って傷つけた人がいたのは事実で。
俺の存在が彼らは疎ましく思われているのも事実だ。
「かけっこで一等取ったのに二等の子に
 うらぁ!次は負けねーかんな!って言われないのは悲しいよな。」
「え?」
「そう言ってくれたら
 だが今回は俺の勝ちだぁ!って笑えるのに。」
月代が知りもしない俺の過去の傷跡を語っている。
「・・・そうだな。」
「ビリだった5等の子まで
 おらぁ!俺も眼中に入れやがれ!
 慢心してっと寝首かいてやっからな!
 なんて言い出すとめちゃめちゃ楽しいんだけどね。」
「ああ。」
「諦めて羨む方が簡単だから
 なかなかそうはならないんだけど、」
「うん。」
「だから羨むくらいは許してあげて。」
「・・・月代は彼らの立場でそう言うんだな。」
「え?俺?」
月代は羨まれる立場であるように思う。
きっとずっと俺なんかよりも気高くて強い。
俺は彼の勉学だけじゃない賢さが羨ましい。

「俺は羨まれるような人間じゃないから
 そう思われることが酷く不安定で受け止め方が解らない。」
「不思議で、じゃなくて、不安定で、なんだ?
 だからいつも一生懸命なんだ?
 答えようって。答えなきゃって?」
月代がふんわりと話す。
「そう・・なのかも・・しれない。
 そう、見えるか?」
「そうなんだろうって。
 それはとても重い感情の押し付けだよね。
 勝手に期待して憧れてるかと思えば別のやつには妬まれる。」
月代が手を差し出して俺の頭をなでた。
その行動には少し驚いたけれど
なでている月代の方があやすされたいような
迷子になった子供のような頼りない顔をしていて
好きにさせてあげたいなぐさめてあげたいと思ってしまった。

「月代・・・」
「うん。なに?」
「泣きそうな顔をしている。」
「あはは。うん。そうかも。」
「俺のせいで嫌な気にさせたなら謝る。ごめん。」
だから俺なんかのためにそんな悲しい顔しなくていい。
「上杉のせいじゃないよ。俺がつまんないこと思い出しただけ。」
「聞かせてくれないか?」
共有させてくれないか?
「ほんとつまんないことだよ。」
「構わない。」
聞きたいんだ。
知りたいんだ。
月代のことを。
「俺が憧れてた人のこと。」
「月代が?」
「うん。すっげぇ人で俺の憧れで目標だった人。
 それを毎日毎日感じさせられてしんどくなかったかなぁって。
 きっとしんどかったと思うんだけどそれでもずっと尊敬させ続けてくれた。」
「すごい、な。」
「うん。挫折してるとことかへこたれてるとことこ見たことなくって。
 ずっと俺の道しるべでずっと俺の前を歩いてた。
 俺はそれが当たり前だった思ってたんだけど。」
月代が俺を見てふふって困ったように笑った。
「上杉見てたら羨まれるそんざいってしんどいんだなって思って。
 俺はあの人にそういうしんどさ追わせたひとりだったのかもなって。」
「そんなことはないと、俺は思う。」
「上杉?」
「誰にも認められないなんてその方が寂しい。
 月代の存在がその人を奮い立たせていたのかもしれない。
 逆境にあったとしても月代の前だから挫けてはいられない、と。」
さっ月代自身が言ったのだ。
待ってろ追い抜いてやると言いながら追ってくれば笑えると。
妬んで嫉んでどうせおまえは俺とは違うからと言われたら笑えない。
「上杉・・・うん。そうだね。そうだといいなぁ。」
「すまない。よく知りもしないのに。」
「ううん。ありがと。
 誰でもなくあの人に近い立場の上杉がそう言ってくれると心強いよ。ありがと。」
俺は何もしていないのに礼を言われた。
「礼を言うのは俺の方だ。
 許すとか許さないとかじゃなくて
 何言われても嫌われても俺は構わないんだが
 ああいう時どう対処すればいいのか解らないから。
 月代にあの場で助けられたのは事実なのだから。」
「うん。」
「助かった。ありがとう。」
「うん。」
月代の憧れる人。
逢ったこともない人に思いを馳せる。
月代はああ言ってくれたけどきっと俺とは全然違う遠い人だ。
 
「月代、」
「なに?」 
「月代のあの人とは・・・」
「ああ、もうね、いないんだ。
 だから俺目標見失っちゃってさ、迷いながら転げまくりなの。」
そう言って笑う曇りのないちいさな顔をなぜか俺は抱きしめたくなった。

俺は月代に嫌われない人間でありたい。








1年の夏の終わり、学年委員の仕事にも慣れてきた頃、
生徒会室で学際についての資料を受け取った帰りの渡り廊下で
投げかけられている言葉が俺に向かっているものだと気付き足を止めた。

「おーこっちみたぜ。」
「やっぱ自分のことって自覚あんじゃねー?」

見覚えがないので他のクラスなのだろう。
ネクタイの色が青いので同学だと解る。

「いつもお高い上杉さんだよ。」
「確かに頭いーし優等生かもしんねーけど愛想ねーし面白味もねーし。」
「そうそ。なーんか俺はおまえ達と次元が違いますって態度とかさ。」
「何様?上様?上杉様?」
「女子に上様って呼ばれてその気になってんじゃね?」
「そういう態度、むかつく。」
「鼻につくんだよ。」

好きなことを言っている。

「俺は・・・」そんなつもりはない。
と言いかけて、そんなつもりはないけれど
今までに何度もそんな風に見られていたことを思い出す。
自分にそんなつもりはなくてもそう思われたら同じことだろう。

言葉が紡げない。

俺自身はあまり覚えていないけれど
兄が言っていたことをおぼろげに思い出す。
「葎はよく笑う子だったのにな。」よくそう言われる。
そうだったかもしれないが意識して笑わなくなった日がある。
「へらへら笑うなよ!おまえに蹴落とされたヤツが影で泣いてんだよ!」
学年順位が貼り出された日の昼休みに些細なことで笑っていたら胸倉を掴まれて言われた。
そばにいた友人は「そんなの言いがかりだ!上杉は今、成績順位のことで笑ってたわけじゃない!」
そう言ってかばってくれたけれど自分が笑うことで誰かを傷つけることがあると知って俺は愕然とした。
そして卒業の日「ああ言ったけど成績落ちて凹んでる時上杉を見るのはちょっと鬱だった時期もあったよ。」
と、あのときかばってくれた友人が言った。「ただの責任転嫁で妬みなんだけけどな。」彼は笑って言った。

ああ。俺が笑うと人が傷つく。
その気が無くても友人は傷ついていた。

「な~に?」
「言いかけてなんも言わねーの?」
「つか図星で言えねぇんじゃねぇ?」
「どんだけ人見下してんだか。」
「つかそういうとこもむかつく、きれぇ。」

「俺はおまえらのほうが嫌ぇ。」

「・・・うわ、月代だ。何?」
「っだよ。なんでこんなの庇うわけ?」

「庇ってない。
 おまえらが嫌いなだけ。
 嫌いとか言いながらその相手に愛想なんか要求してんじゃねぇよ。」

「なんなの?月代いつもとキャラ違くね?むきになんなよ?」
「冗談じゃん。マジで怒るなよ。」
確かに普段の月代には見られない凄みで睨んでいる。
その表情にいつもの気の抜けたような笑みは微塵もない。

「じゃあ八つ当たりすんな。謝れ!
 俺は今、腹が減って異常にむかついてんだ!」

「「そっちのが完全な八つ当たりじゃん!」」

「いんだよ俺は!
 どうすんの?謝んの?
 それともその前に拳で話し合う?」

「上杉より嫌なやつだな。
 我が侭過ぎるんだけど。
 拳じゃ話し合うとかねぇし。」
「ったく解ったよ・・・ぶっそうなこと言うなよ。」

「上杉、悪い。」
「ごめん。言いすぎた。」
「ってことだから勘弁してやって。
 こいつら悪気しかないんだよ。
 上杉ばっかもてもてでひがんでるもんだから
 真っ直ぐに悪意の気持ちを伝えたかっただけなんだ。」

突然の月代の登場に
突然の彼らの謝罪に
頭がついていけなくてコクコクと頷く。

「なんだよその言い方。酷くねぇ?」
「まんまじゃん。」
「まんまって・・・もっと言い方があんじゃん。」
「上杉に嫌われたら女子にも嫌われるぞ。
 好きなもん嫌いだっていうやつは嫌いだろ?」
月代はさっき嫌いと言い放った彼らの首に
ぶらさがるように腕を回して顔を近づけて話している。
彼らもさっきまで威嚇していたことを忘れたように砕けた表情。
「あ~・・・。」
「まあ・・・。」
「な!もてない要素増やしてどうする?」
「あのなぁ。俺らそこまでもてなくないぞ。」
「まあ、でもここじゃ女子と接点少ないしな。」
「そこで学際であり生徒会があるわけだ。」
「おお!忘れてた」
「来月じゃん!月代のクラス何すんの?」
「たこ焼き。そっちは?」
「え~と・・・なんだっけ?」
「俺らはお化け屋敷。」
「うわぁ。カップルしか来なさそう。」
「絶望だ・・・」
「ガッカリじゃねぇか・・・」
なにやら打ち解けて笑い合う月代たちの後姿を見ていた。
あの殺伐とした空気はいったいどこにいったのか楽しそうな後姿だった。 
 
「ああもう仕方ないなぁ。
 学際でたこ焼きおごってやるから元気出せ。
 たこ焼きは万人に愛される食べもんだから
 たこ焼きをしこたま食う女子と仲良くなれるかもだぞ!」
「そんなにたこ焼きばっか食ってる女子はやだよ俺・・・」
「俺はそんな女子でもいい。出逢いたい。」
「ほら田村!村田はこんなに前向きだぞ!」
ああ、彼らの名前はそういう名前なのかと
離れていく声に耳を傾けていたら
「俺は田村じゃねぇ!」
「俺も村田じゃねぇ!」
と返していたので思わず笑ってしまった。

怒らせることで人を笑わせるだなんて、なんて素晴らしい才能だろう。
だってこの場に生まれただろう被害者も加害者もいなくなってしまった。

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BrownBetty 
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